あなたに新しいメッセージ/いいねがあります。

立田慶裕先生による『読書と豊かな人間性』講評(2)

立田慶裕です。本稿は、2026年3月15日に立教大学池袋キャンパスで開催されたシンポジウム「「読書と豊かな人間性」の授業内容と指導法の検討」での発表の記録に若干の加筆修正を行ったものです。前編はこちらにあります。

 学習環境では、学習の核となる学習原理がどのように動いているかがとても重要なポイントです。私どもが翻訳したOECDの『学習の環境』では、多くの教育環境の革新的事例で、次の七つの原理が組み合わさって動いていることが前提とされています。一つ目は学習者を中心とし、彼らの自律的な学習習慣を育てることです。二つ目は学習の社会性を重視するということで、学習環境を通じて学習者が人と繋がる環境やカリキュラムの提供を考える必要があります。三つ目は感情が学習にとって重要であるということです。論理的な学習だけではなく、MITのような計算論的で論理的な学習と同時に感情を大事にすることが必要だと考えています。四つ目は個人差の認識と理解です。小学校段階から学習者の個人間の格差が生じてきますから、それにどう対応していくかというところです。その方法の一つが学習の個別化ですが、個別化には1人で閉じこもってしまうという悪い面もありますが、一方で最適な学習を自分で進めていけるという良い面もありますので、そうした個別学習に応じた個別最適システムをどのように作るか考えることも重要だと思います。五つ目は学習の評価という点で、すべての生徒を伸ばすことです。そして六つ目は学習のアセスメントを活用という点で、特に形成的アセスメントを重視します。これは専門用語ですが、要は学習者と指導者の対話的なアセスメントやフィードバックを通して、子どもたちの意欲を高めていくものです。七つ目は水平的な関係づくりです。これは上から下へ、教師から子どもへ教えるのではなく、子ども同士、あるいは教師と生徒が水平的な関係にあるのだということを意識しながら作っていくということです。水平的な関係という点では、学校と教育委員会や国との関係、あるいは学校と学校外の教育組織の関係でもその姿勢が求められます。

 ここで、中村先生の本(『読書と豊かな人間性』樹村房, 2026)と私の『読書教育のすすめ』の違いが何かを考えました。まず読者対象は、中村先生の方でも司書教諭中心にされているのですが、実は教員や学校司書を巻き込むことも読書活動の充実や生徒の人間性の成長という点では重要になります。読書教育を行う上では、保護者も重要で、家庭における読書教育をどうするかも大事だと私は考えています。中村先生のご本でのねらいとしてやはり「導き」という言葉が頻繁に用いられていますが、これはとても良い言葉と思いました。ここに中村先生の感性が出ているだろうし、読書の教育環境の形成のねらいとは全く違う教育的目標もそこに含まれているように感じます。学問的背景については勘所を押さえられていますね。黒沢先生の認知心理学、言語心理学のご専門も含めて、理論家、実践家の方々が執筆者として参加しておられます。「読書」という点では専門的になりがちですが、「人間性」を育てるには、広い観点が重要です。小生は、2015年に最初の本を出しましたが、それ以後この10年の間にも図書館政策、教育政策が大きく変化していますし、国際的な目標としてSDGs、ICT、生成AI、パンデミックに関わる健康環境の変化といったがみられ、学校内外を含めて、読書のありようは大きく変わってきています。

 例えば、読書政策に関していえば、1997年の学校図書館法改正は、その方向性を明確にしてきました。子どもの読書活動推進の法律の影響は大きいです。この法律を国家主義的観点がみられると書かれていますが、私は国家公務員としての勤務経験から、国の動きは政府が勝手に決めていくというよりは、そこに民間の教育組織の影響も大きく反映されていると思っています。実際、文部科学省が政策を考えていく際には、地方自治体の動きや組織としての影響もありますし、草の根のNPOも重要です。民間団体としては、文字活字文化推進機構や日本こどもの本研究会、「本の学校」研究会などがありますが、私の本では黒澤浩先生に書いていただいたり、永井伸和さんの出版振興運動に影響を受けるなど、学ぶことが多かったです。それから、2014年に新たに学校図書館法が改正され、学校司書の役割が明記されるようになりました。全国の学校司書さんたちは、その劣悪な勤務環境の中で学校図書館を支え続けておられます。

 本当はきちんと調べないといけないのですが、1990年に「人間性豊か」という言葉が出てきて、この学習会の発表でも「人間性」とは何なのかという点が気になります。やはり、学習指導要領の中での「人間性」という概念は洗い直しておく必要があるのではないかと思います。中村先生の本の中で出てきた「人間性」という事で言えば、私は読書を通じて人間としての基本的な価値を学ぶということが必要だと考えています。そして人間性の内容としては、まず自立性や自律性、自己調整能力や先ほど挙げた最適学習ですね。それから当然、精神的な豊かさ、想像力も重要で、豊かな精神性を育むことです。民主的な社会参加という点で、子どもたちをいかに社会に関わらせ、エンゲージメント、参加させるかということが重要になってきています。これは私の価値観ですが、社会に関わる以上、人間として社会に貢献する意思を持つことがとても大事と考えています。「学習の環境」の国際的な事例の中でも、教育プログラムを通じて社会参加のきっかけをどんどん与えていくプログラムが増えてきています。

 国際的には、これは学習の環境の研究の中で知ったことですが、「学習のエコシステム」という視点があります。学校、それを取り囲む公共図書館、それから家庭、国、自治体。それぞれの社会に大きな社会問題があります。幼稚園児から成人の学習者へと至るプロセスにおいて、その大きな学習環境を私たち一人ひとりがどのように作っていくとよいか、ということが重要になると思います。学校図書館についても高校段階の学校図書館を含め、さらに大学図書館の段階では、既にオープン教育資源やオープンサイエンス、図書館のオープン利用の方向が動き出しています。つまり無料で本を読める環境が、デジタル、アナログ両面で作られつつあるのです。その点では出版社の協力がどうしても大きな問題ではありますが、やはりこうした教育システムのオープン化と、地域・コミュニティという学習のエコシステムの形成が大事だと思います。

 リソースのデジタル化の課題もあります。ILEの研究ではデジタル化も同様に考えられており、教育のコアと呼ばれている四つの要素に注目します。つまり学習者、教育者、リソース、コンテンツです。これらが教育のコアであり、4つを動かす教授法や組織のデジタル化の課題です。

 さらに、今後は、科学的根拠に基づいた読書科学の研究も重要と考えて、少しだけその動向をみました。イギリスは科学的な根拠から読書教育を捉えています。カナダは言語のプロセスモデルを研究しているし、アメリカでは Simple View of Reading という単純な読書ではなく、もっと複雑で能動的な Active View of Reading という動きが出てきています。これは黒沢先生がしっかりと書いていらっしゃいますが、読書の困難性、要素は複雑であり、単語の認知と言語理解が密接につながっていること、それから自己調整の能力や自制的な役割、この他にも読書の研究を進めていくことで学習全体を底上げすることができるということを論じています。

 私は、読書教育という方法をどのような科学的根拠を基礎にして、学校の中に調整し、統合していくか、ということが重要と思います。科学的理論的な根拠や実践的な事例研究に基づけば、教科との関わりももっとスムーズになり、学校の先生方の協力もスムーズに得られやすいのではないかと考えています。

 ご清聴ありがとうございました。

著者
立田慶裕
公開日
更新日

関連記事

0
あなたの考えが大好きです、コメントしてください。x