明治大学付属明治高等学校中学校の司書教諭の江竜珠緒です。本稿は、2026年3月15日(日)に立教大学で開催されたシンポジウム「「読書と豊かな人間性」の授業内容と指導法の検討」での報告記録で、後半になります。前半はこちらにあります。
テキストには掲載しなかった最近の実践としては、「読書ビンゴ」というのがあります。これを作ったのにはきっかけがふたつあります。ひとつは、生徒のみんなが読書するようにするにはどうしたらいいと思う? と、図書班っていう、図書委員会のような部活があるのですが、その生徒に聞いたら、「ビンゴだったらやる」というので作ってみたんです。

もうひとつのきっかけは何だったのかといえば、やはり高校3年生と話をしていたら、その生徒が「芥川龍之介は「蜘蛛の糸」と「羅生門」しか読んだことないなあ」って言ったんです。あー、それはもったいないなあと思っていたところに、その子の友だちが、「『よだかの春』っていう本ありますか」って言ってきた。それはもしかしたらわたしが知らないだけで何か宮沢賢治にインスパイアされた小説が出ているのかなと思ったらそうじゃなくて、本当に、宮沢賢治の「よだかの星」を探していた、という……。
いやそれはちょっとどうなの、最低限これくらいは読んでおいてもいい作品ってあるんじゃないの、と思って、これを作りました。これ、32パターンあって、同じように見えて少しずつ違います。景品は書店さんからいただいたものとか、図書館総合展で配布されていた無料の付箋だったりとか、大したものではありませんが、生徒が楽しんでやってくれているのでよかったかなと。
こんなので読むようになるのかと、自分で作っておきながら疑っていたりしたんですが、意外にウケが良くて、それならさらにもう少しいろいろな違うビンゴを作ってみてもいいのかなと思って、中学推薦図書ビンゴとか別のもっと簡単そうな本のビンゴを作ったりもしている今日この頃です。
この文豪ビンゴ、現在学校図書館でお勤めの方の中には、「いまさら文豪かあ」って思った方もいらっしゃるかとは思います。正直、これが合わない学校もあるかと思います。本校生徒の場合は、おそらく読めるだろう、本校生徒なら読んでおいてほしいということで作っていますが、もちろん、学校によると思うので、ビンゴを作るにしても文豪に限らなくてもよいとは思います。
ただ、いわゆる文学作品、最低限、司書教諭志望の学生さんには読んでおいてほしいと思います。古典的な文学作品には普遍的な人間のありかたという点で現代に共通する点もありますし、その良さみたいなものは、やっぱり失われないものではないかと。だからこそ、実はいわゆる文学作品で読書会をすると、最近の本でするより盛り上がることもあるんです。本校生徒も、すごく盛り上がったのはヘッセの『車輪の下』でした。

最近の作家はたくさんいるので、なかなか共通の話題になりにくい。でも、いわゆる文豪と呼ばれる人は限られているので、共通の話題になりやすいというのも文学作品を読む利点だと思っています。それこそ海外に行ったとき、日本語であったとしても、シェイクスピア読んだことあるとか、ディケンズ知っているとか言うと、そこから会話が生まれることもあるのです。それを知った上で、でもあえてこの学校の生徒には文豪作品は不要だと思うから読ませない、というのと、自分が読んだことないから生徒も読まなくていいと思う、というのは違うと思います。
加えて、例えば本校だと、英語の先生が1年間かけて高校生に読ませたい英語の本はどれにしようかなあと思って、と相談にいらっしゃることがあります。テキストにも書きましたが、英語多読の本には「Graded Readers」というものがあって、その中から選びたいということになると、どうしてもイギリスやアメリカの古い作品になってしまいます。このあいだも、高1でフランケンシュタインやって、高3でシェイクスピアをやる予定なので、高2ではアメリカの作家がいいと思うんだよね、という相談でした。
オルコットじゃやさしすぎですよね、ジャック・ロンドンとかよさそうだけどいいレベルがあるかな、ヘンリー・ジェームズならデイジー・ミラーがレベル的にちょうどかもしれない、あ、フィッツジェラルドのグレイト・ギャツビーとかどうですか映画もあるし、みたいな会話があって、結局、その後、フィッツジェラルドに決まって、OxfordとMacmillanとどっちのテキストのほうがいいかな、という選定まで関わったのですが、こういうやりとりが司書教諭としてできないと、先生からの信頼度が下がってしまいます。
最近は海外文学作品が教科書から激減しているという話もありますし、司書教諭志望の学生さんは、ある程度、文学史に載っているような作品は海外のものも含めて、知っていてほしいと願っています。

受講する学生さんたちには、このテキストの最後に中村百合子先生もお書きになってらっしゃいましたが、とにかくたくさんの本を読んでおいてほしいです。おそらく司書教諭になりたいと思っているような方は、もともと本が好きという人が多いとは思うんですが、そういう人でも、現代の日本のミステリばかり読んでいるっていう可能性がないわけじゃない。だから、そうじゃなくて、幅広く、いろんなものを読んでおいてほしい。文学作品に限らず、です。社会の先生とも理科の先生とも家庭科の先生とも話ができるようであってほしい。
そして、できれば時間のあるうちに、いろんな図書館を見学しておいてほしいと思います。公共図書館、学校図書館、あちこち見ておくことは、自分が働くときにきっと役に立ちます。自分の卒業校には簡単に行けると思います。だから、仲間同士で順に、互いの卒業校を訪問してもいいと思います。もしくは、自分の司書教諭課程の先生を通じて、行きたい学校図書館を紹介してもらう。わたしだって、百合子先生から頼まれたら学生さんたちの見学、断らないです。すでに働いている若い司書教諭の方だったら、学校図書館を会場にして開催されている研修会に行くのもひとつの手段です。見学の方法なんていくらでもあります。
図書館の仕事は、座学で学んだことと実践がなかなか噛み合わないと感じる部分も多いかと思います。でも、働いていると、あるときカチっと理論と実践が噛みあう瞬間があります。あ、先生が言っていたのはこういうことか! あの本に書いていたのはこれだったか! って気がつく瞬間が。そのカチっと噛みあった瞬間からが、司書教諭としての本領発揮というか、本当の意味での成長期になるんだと思います。その瞬間は理論が身についていなければ決して訪れないし、日々生徒と向き合って、試行錯誤しながら真剣に働いていないと訪れない。
学生のみなさんのこれからに期待します。といっても、今日この場にどれだけ学生さんがいるかわからないので、読書と豊かな人間性を教えていらっしゃる先生方に、ぜひ、学生さんたちに多くの本を読ませ、図書館を見学するようにと伝えてもらうようにということを期待します。
そして最後の最後ですが、可能であれば学生のみなさんには英語の本も読んでおいてほしいです。小学校で英語教育が始まりましたし、中高図書館には英語の本も所蔵しておかなければならないという日はそう遠くないうちにやってくると思っています。そのときに慌てることのないように、準備しておくのは重要だと思っています。それについての詳しいことはテキストを読んでおいてください。

限られた時間の中でいろいろなことを話してしまいましたが、今回このテキスト作成に加われて自分自身が本当に勉強になりました。ありがとうございました。学生のみなさん、若い司書教諭のみなさんの今後に期待します。
(最後の写真は調布市立中央図書館に掲示していただいた書道作品です。生徒が自分の好きな本の書名、著者名、引用部分を筆で書いたものを掲示していただきました。)
