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「読書と豊かな人間性」の授業内容と指導法の検討(導入の後半)

立教大学の中村です。2026年3月15日(日)に開催した標記タイトルの公開シンポジウムの冒頭での、私の導入の発言の記録です。前半の記録はこちらにあります。

 さて、本書の編集方針をお話しておきたいと思います。「読書と豊かな人間性」について、本書一冊をとおして読者に考え続けてもらうこと(第1章)で一貫させたつもりです。

 そして、認知心理学者の黒沢学先生を招き、心理学の最新の研究動向をふまえました。心理学が明らかにしている「読む」行為の内実を示し(第3章~第4章)、そのうえで「豊かな人間性」を心理学からも検討しました(第5章)。そして、デジタルと紙の読書の読みの違いに関する最新の研究動向(第14章)についても書いていただきました。この分野は研究が現在進行形で進められておりますが、この時点でのいったんの整理と言う意味で、第14章は読み応えがあると思います。

 また、学校図書館現場の実践経験にもとづいて実践の核心を伝えることも編集の軸になっております。小学校は中山美由紀先生(第10章、第11章)、中学・高校は江竜珠緒先生(第12章、第13章)にご執筆いただきました。さらに、心理学と実践者をつなぐ論考を加えて真ん中に据えました。この方針のもとに、片山ふみ先生から読書指導の具体的な実践スキルを網羅的に紹介していただきました(第8章、第9章)。そして私は、日本の子どもの読書の現状と読書の導きに関わる歴史を整理して正確に伝えることを目指しました(第2章、第6章、第15章)。

 私は同じく樹村房から『学校経営と学校図書館』のテキストも出していますが、こちらは歴史の視点を重視しました。私の研究手法は歴史と国際比較ですので、自然にそうなりました。今回は心理学の視点を重視し、加えて、歴史をはじめとして人文学、社会学、図書館情報学の角度も当然、大切にしました。今回、私の章では、心理学や社会学の手法による大規模なデータを用いた読書調査をいくつも紹介しました。これは大変悩んだのですが、調査手法や調査結果を詳しく見るといろいろ疑問がわいたり、結論として書かれていることに対して、別の見方もできるのではと思ったりしました。このテキストで紹介されている調査結果をそのままうのみにしないで、ぜひ、各調査の報告書や公開されている調査データをご覧いただきたいと思います。

 今回のテキスト編集で網羅できなかったことについてもお話しておこうと思います。一番上からお話しますと、当初、私は、このテキストを、司書資格の必修科目である「児童サービス論」でも採択してもらえるようなものにしたいと考えました。司書教諭の資格取得者が減っているということが気になっていたこともあります。しかし、章構成を考えていくなかで、それはとても不適切だということがわかってきました。

 一つには、司書教諭の科目は教員免許状取得者を想定できる、ということがあります。今、この科目は「学校司書のモデルカリキュラム」においても必修科目となっており、このモデルカリキュラムの履修者には教員免許状取得が求められていないということはあります。しかし、少なくとも「学校司書のモデルカリキュラム」を開講していない大学 ―立教大学もそうした大学の一つですが― では、学生は司書教諭の課程は教員免許状のための学修と同時並行させます。例えば「幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」や「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」に関する科目は教員免許状の取得のために別に学修しているものと想定されるのです。こうした教員免許状取得の知識が想定されるのとされないのでは、「読書と豊かな人間性」のテキストはだいぶ変わってくると思いました。それから、そもそもと言うべきか、学校図書館は学校にあるので、学校教育、例えば学年や教科の教育との結びつきが強く、それを考慮した読書の導きを行うことが多く、それを今回の教科書でも十分に反映する必要があうるということも、考えました。

 それから、片山先生の章、つまり第8章と第9章をご覧いただきたいのですが、これらの章では、読書へのいざない、読書の導きの手法を重要文献に言及しながら網羅的に紹介しています。よって、特定の手法を詳述することはしていません。これは私の編集上の判断で、片山先生にはこのように書いてくださいとお願いしたものです。これは、こうした手法については、演習形式で学んでいただくことを想定しています。

 前にも述べましたように、私は、「読書と豊かな人間性」は学校図書館現場で長い勤務経験のある方に教えていただくべき科目だろうと思っていますので、現場実践のある方であればそうした演習を適切に指導でき、長く指導法を詳述する必要もなかろうと思いました。もちろん、紙幅の都合がなければ、そうした章があればなおよかったでしょうが、全体のバランスとして、ここを圧縮したということです。

 それ以外にも、時間の都合で、これ以上は申しませんが、本書の限界はあいろいろあると思います。実は、2024年10月半ば過ぎに揃った原稿を一度、樹村房に入校したことがあります。300ページ以上になっていました。大塚社長からこれは教科書として厚すぎると言われて、そこから圧縮して1/3ほどページ数を減らしたという経緯があります。今日、第二部では、各執筆者の方からお話をいただきますので、その中で、ここでこれを削除して無念だったというお話も出てくるかもしれません。

 実は私も掲載できずに残念だった二つの資料があります。一つは、p. 81から83で紹介しているアメリカのノートンが、言語・認知・人格・社会性の四つの側面から各年齢段階の子どもの読書に関わる発達を整理した表の翻訳です(こちら)。もう一つは、現行学習指導要領における「読書」への言及カ所の一覧です(こちら)。どうぞご参照ください。ダウンロードも可能なようにしてあります。また、今回、出版後、本日までに見つかりました誤植につきましても整理しました(こちら)。お詫びいたします。では、時間がきますので、私のお話はこのくらいにいたします。

著者
中村百合子
公開日
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