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「読書と豊かな人間性」の授業内容と指導法の検討(導入の前半)

立教大学の中村です。2026年3月15日(日)の9時~12時半(実際には13時ころまで)、本学池袋キャンパスにおいて、標記タイトルで公開シンポジウムを実施ました。現地にも20名以上の方が、オンラインでは百名以上の方が参加してくださいました。登録者は150名近くで、オンラインでお申し込みの方に多くの欠席者が出るのはハイブリッド開催イベントの常ですが、この日は申し込んでくださった方のほとんどが実際に参加してくださったのではと思います。ありがとうございました。

 この時、冒頭で私がお話した内容をまず、ここに公開します。一部、加筆しております。また、黒沢学先生の基調講演については、後日、本学司書課程紀要St. Paul’s Librarian誌上で記録を公開します。黒沢先生に続いてご発言いただいた方々の記録は、本Spontane.infoにて、これから順次公開してまいります。

 本日の公開シンポジウムは、樹村房より読書と「読書と豊かな人間性」のテキストを出版したことを記念して企画しました。今回の出版の目玉では、認知心理学者の黒沢学先生に原稿をお寄せいただいたことで、今日の前半はこの後、黒沢先生の基調講演を据えております。その前に、短時間、私の方から、今回の出版の主旨についてお話させていただきます。

 ご存知のとおり、1997年に学校図書館法が改正され、あわせて学校図書館司書教諭講習規程が改正されました。「読書と豊かな人間性」という科目はこの時に生まれました。その前後、12学級以上の学校への司書教諭の配置を実現するべく、司書教諭の養成が爆発的に増えました。

 左のスライドにあるように、2002年には2万人近い方が司書教諭の資格を取得されました。しかしそれは一時的なことで、文部科学省から提供を受けた最新の数字で、2024年には4,837人が資格を取得したということです。左の図は、私が2020年に発表した論文の中に載せた、司書教諭資格取得者数の変遷のグラフに最新データを加えたものです。近年は五千人を割っていますが、もっと少なかった時代もありますので、もっと下がる可能性もあると言えましょう。

 司書教諭資格取得者数が適切かどうかを検討することは極めて難しいです。私が2016年に地方都市でインタビュー調査を行った時には、司書教諭資格取得者が足りなくて苦労していると複数カ所で聞きました。ただ、子どもが減り、12学級以上の学校も減っていくならば、司書教諭資格取得者を切実に求めるそうした教育委員会の声も聞こえてこなくなるかもしれないですね。

 もう一つの要素として、これまで小さな単科大学等で司書教諭の資格付与をしていたところが閉校していくことが増えると、これも司書教諭資格付与には影響してくるでしょう。司書教諭資格付与の未来がどうなるのか、私は予見できていません。ちなみに、私はこのインタビュー調査を行った2016年ころから、「読書と豊かな人間性」の授業実践に関心をもってきました。この年には、「読書と豊かな人間性」の指導実践を議論する公開シンポジウムを開催しました(記録はこちら)。

 さて、背景としてはこのような中、今回、私は、『読書と豊かな人間性』のテキストの編集に着手しました。このテキストは実は別の方が編集担当を予定されていたのですが、のっぴきならない事情で頓挫し、2023年秋、私が火中の栗かもしれないと思いながら、しかし意欲的な気もちでその仕事を拾ったのです。まあ、この時、私ははじめての在外研究でアメリカに一年行って帰ってきた直後だったので、少し体力があったといこともあったかもしれません(笑)。まずは、二十数年来の、尊敬する友人、黒沢学先生(東京電機大学教授)にかなりの部分を書いていただくことに合意していただけて、これは行けるだろうと思いました。

 1997年の学校図書館法改正の後、多くの出版社が司書教諭資格付与のためのテキストに参入してきました。樹村房の他、学文社、青弓社、全国学校図書館協議会、勉誠社、ミネルヴァ書房、そして放送大学のテキストも出されています。左のスライドに、2010年以降のテキストをあげました。

 これら、それぞれに特徴があります。一番最近出された、金沢みどり先生と河村俊太郎先生のテキスト(「ライブラリー 学校図書館学」)は、ある方は私にこのテキストが最も読み応えがあると教えてくれました。金沢先生は児童サービス論のテキストも出しておられて、子どもへの図書館サービスについてずっと考えてきておられますし、河村先生は新進気鋭の研究者ですので、当然、よい相乗効果が生まれたことでしょう。放送大学の岩崎れい先生と米谷重則先生の共著も、それぞれの先生方の専門性がよく反映された一冊になっています。お二人とも長年、研究を続けてこられたので、もちろん、この分野には一家言おありの方たちです(参考:放送大学の同書の司書教諭資格取得に資する科目ページ)。

 全国SLAの2冊と、天道佐津子先生編集の1冊は、今回私どもが5名で分担執筆したのと同様、けっこう多くの方が参加して書かれています。「探究学校図書館学」は編者・著者合計9名、「シリーズ学校図書館学」は6名、天童先生のご本は7名の方が書いておられます。堀川照代先生や足立幸子先生など、知られた研究者も分担執筆ならば参画していただけるので、もちろん執筆を多くで分担してこそ達成できることもあると思います。一方で、小川三和子先生のものは単著です。司書教諭として長く活躍してこられた小川さんが単著で出しておられるのですから、私はこれはこれでかなりいいテキストだと思います。

 このような群雄割拠とも言える状況の中、しかも、司書教諭資格取得者が減少傾向なのかなという状況にあって、今後、新たに司書教諭資格科目のテキストを出版するのには、高い質が求められてくると私は考えています。私は、「読書と豊かな人間性」は、司書教諭資格付与の科目の中でも一番と言っていいくらい、学校図書館現場で長い勤務経験のある方に教えていただくべき科目だろうと思っていまして、というのは、図書館の専門的な実践の基盤は、資料・情報の存在、それの探し方、そして内容をも知っていることだと考えているからです。本書の第15章、最終ページ(p. 220)に書きましたが、つまり、司書教諭なり学校司書であれば、子どもやティーンのための本を知っており、そして子どもやティーンがそれらの本をどう読んでいるかを日々彼らの身近にいて知っている。それこそが読書の導きについて後進に教える際に大変重要だと考えているということです。

 その意味で、私は「読書と豊かな人間性」を教える資格はないと思います。ただ、理論的には検討してきたので、こういう本を部分的には書けたわけです。本書では、このような私の独自の判断から、中山美由紀先生と江竜珠緒先生に分担執筆をお願いしました。お二人にはほんとうにほんとうに貴重な貢献をしていただきました。私には決して、中山先生や江竜先生が寄せてくださったようなものは書けません。そして、お二人の書いてくださったことと、今回、紙幅の都合で書かれなかったことも含めて、実践家の方たちの知見はたいへん重要であり、後進の方たちに伝えていかれるべきことだと考えています。

  左のスライドの一冊目は未完で、出版が楽しみですが、二冊目以降は「読書と豊かな人間性」をタイトルに入れていないけれど、使えるだろうと私が思ったものです。これ以外にもあるだろうと思います。今日、この後、立田先生にもご登壇いただきますが、立田先生は教育政策研究所にいらした2010年に、『言語力の向上をめざす生涯にわたる読書教育に関する調査研究報告書』(国立教育政策研究所生涯学習政策研究部, 2010.3, 調査研究等特別推進経費調査研究報告書 ; 平成19-21年度 ; 生涯学習-001)を出しておられて、こちら、同研究所内外からたいへん多くの方が関わった研究でした。この頃から、立田先生は「読書」にご関心を深められてきたのだろうと思っています。今日、貴重なお話をおうかがいできるものと楽しみにしております。短時間でお話いただくというお願いで、失礼なことで、申しわけありません。

(つづく)

著者
中村百合子
公開日
更新日

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