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フランスの「ドキュメンテーション・情報センター」とドキュマンタリスト教員調査

放送大学の岩崎久美子です。中村百合子先生が研究代表者である科学研究費補助金(学校図書館司書教諭養成の持続的質向上の基盤形成)の研究の一環として、2025年2月にフランスの先駆的モデルとされるパリのジャンソン・ド・セイリー高校(Lycée Janson de Sailly)「ドキュメンテーション・情報センター」(Centre de Documentation et d’Information, 以下CDI)を訪問しました。またそれに先立つ2024年2月にフランスのドキュマンタリスト教員を対象にアンケート調査を行いました。

 今回は、これらのCDI訪問とフランスのドキュマンタリスト調査結果の内容を紹介したいと思います。

1.パリの名門校訪問:ジャンソン・ド・セイリー高校「ドキュメンテーション・情報センター」

 ジャンソン・ド・セイリー高校は、パリの16区にある名門のリセです。

 この学校には、高校にあたるリセのほか、中学校にあたるコレージュ、そして高校卒業後、グランゼコール等の入学試験に備えるために2年間(場合により3年間)学ぶ「グランゼコール準備学級」(Classes préparatoires aux grandes écoles, CPGE)が設置されています。

ジャンソン・ド・セイリー高校(Lycée Janson de Sailly)正門

 ジャンソン・ド・セイリー高校のCDIは、1958年に当時の校長であったマルセル・サイアー(Marcel Sire, 1903-1985) 氏が、教員の事務的・技術的文書管理のために、学校内に「文書情報センター」(Service de Documentation et d’Information, 以下SDI)部署を設置したことに始まります1このSDIは後にCDIとなり、全国のCDIの原型となりました。現在、ジャンソン・ド・セイリー高校のCDIはマルセル・サイアー校長の名前を記念し、マルセル・サイアーセンター (Centre Marcel Sir)と呼ばれています。

 校内には、リセとグランゼコール準備学級の生徒が共通で利用するCDIが4部屋ありました。ドキュマンタリスト教員は3名配置されています。特に、グランゼコール準備学級にあっては、長時間学習、大量の課題、頻繁な試験や口頭試問があり、CDIでは大量の参考文献、学術資料、専門情報を扱う必要があるとのことです。実際に訪問したジャンソン・ド・セイリー高校のCDIは、生徒の多くが出入りする活気のあるものでした。 

 ドキュマンタリスト教員のルジャンドル(Legendre)さんに連絡をとったところ、とても温かく迎えてくれました。 

 ルジャンドルさんは、「ジャンソン・ド・セイリーで働けるのは幸運」と繰り返し述べていました。このような学校では、教科を教える先生も優秀で、 ドキュマンタリスト教員と連携して水準の高い教育活動がなされるのかもしれません。ドキュマンタリスト教員という同じ職種でも 地域や学校の環境によって、 かなり待遇や満足度に差があると思われます。

「ドキュメンテーション・情報センター」で自習する生徒たち

 ジャンソン・ド・セイリー高校には、グランゼコール準備学級の生徒のうち、地方出身学生などのための寄宿舎もありました。CDIの開館時間は、高校生は9時から19時15分までですが、寄宿生には、夜間自習用に23時まで開館しているとのことでした。

 グランゼコール準備学級では高度で集中的な学習が求められるため、CDIは学習支援の中核的機能を担っており、また学生は勉学のためCDIで多くの時間を過ごすようでした。そのため、その運営を支えるドキュマンタリスト教員の役割も非常に重要であることが伺えました。

CDI主催「高校とグランゼコール準備級学生のための論文コンクール」のポスター
(2024-2025年度のテーマは「緑」)
おみやげにいただいた高校の歴史に関する書籍『ジャンソン・ド・セイリー高校(Lycée Janson de Sailly):名門高校の歴史)』

2.フランスのCDIの創設

 フランスでは、日本人がイメージする学校図書館は、「ドキュメンテーション・情報センター」(CDI)と呼ばれています。

 なぜ、学校図書館ではない名称が生じたかを歴史的に見てみますと、フランスでは、1966年以降、図書館とドキュメンテーションサービスの統合が実験的に導入され、新たに「ドキュメンテーションと情報サービス」(SDI)と呼ばれるようになりました。このSDIは1973年のフランス国民教育省(Ministère de l’Éducation nationale)による通達ですべての中等教育(コレージュとリセ)に置かれることになり、さらに翌年1974年にSDI は、現在の「ドキュメンテーション・情報センター」(CDI)に名称が変更になりました。

 その後、1986年には、フランス国民教育省から「資料・情報センターで働く職員の業務」2 に関する通達が出され、中等教育(コレージュとリセ)におけるCDIの位置づけやそこで働く職員の役割についてのガイドラインが示されました。しかし、この通達が出された1986年以降も地位向上を求める声は依然として強かったと言われています。職員の地位や専門性が確立していなかったからかもしれません。

 そのような中、1989年教育大臣であったリオネル・ジョスパン(Lionel Jospin) 氏がフランスの教育改革を目的とした「オリエンテーション法」(loi d’orientation sur l’éducation)3 を制定します。

 その教育改革では、生徒の自律的学習や情報活用能力の育成が重視され、ドキュマンタリスト教員の役割が規定されました。CDIで働く職員に正式に教員としての地位が認められ、教科指導の一環として情報教育に従事するものとされたのです。また、他の教員と協力して授業支援を行い、生徒が必要な情報アクセスが可能な学習環境を整備するものとされました。そのため、1989年に「中等学校教員資格」(Certificat d’aptitude au professorat de l’enseignement du second degré, CAPES)に新たに「ドキュマンタリスト領域」(CAPES de documentation)が創設され、1990年に最初の試験が実施されることになりました。

 この制度改革により、学校内の情報管理、資料管理、メディア教育、図書館業務を担う専門職として、ドキュマンタリスト教員を養成する体制整備が進められました。1990 年代になると、中等教育(コレージュとリセ)のCDIに、専門職員としてドキュマンタリスト教員が順次正式に配置されていったのです。

3.フランスのドキュマンタリスト教員対象のウェブ調査

 このように、フランスの中等学校(中学校・高校)のCDIにはドキュマンタリスト教員が配置されています。このようなフランスのドキュマンタリスト教員の実態を把握するため、2024年2月に中村百合子先生の科研の研究の一環として、オンラインフォームによるアンケート調査を行いました。その結果についてもご報告したいと思います。

 アンケートの配布には、全国学校図書館協議会による報告書(全国学校図書館協議会視察団・編(2012)『フランスに見る学校図書館専門職員ドキュマンタリスト教員の活動』公益財団法人全国学校図書館協議会)の中のコンタクトパーソンに連絡しご依頼したのと、中村百合子先生の友人のナント大学教授クリスチーナ・コレロ先生(Cristina Correro Iglesias)にお願いしました。

 質問項目の内容は、所属先、教育歴、職業選択の動機や理由、継続教育、職業で求められるコンピテンシー、継続教育の有無と種類、満足度、学校内で企画した催し物などです。

 実施期間は、2024年の2月7日から2月19日で、この間、31人の回答がありました。

 アンケート内容(質問紙)とその結果は以下でご覧ください。それぞれの一ページめを表示しておりますが、これをクリックしていただくと、全文ファイルに飛びます。

 関連資料 

アンケート(質問紙)
アンケート結果
日仏図書館情報学会「研究ノート」

4.フランスの調査を振り返って

 今回の訪問を通して、フランスのCDIが単なる学校図書館ではなく、生徒の学習を支える教育の場として機能していることを実感しました。また、その中心で活動するドキュマンタリスト教員の専門性の高さも印象的でした。

 ナントでお会いしたドキュマンタリスト教員は、一般教員よりも保護者対応や生徒の行動などの業務がないため、落ち着いて仕事ができる良い職場だと語ってくれました。教員としての専門職としての地位があることが満足度が高い理由かもしれません。

 今後は、今回のアンケート調査結果も含め、日本の学校図書館における学校図書館司書との比較も進めていきたいと思います。


  1. Janson de Sailly, Paris ( CPGE,CDI) https://www.janson-de-sailly.fr/cpge-cdi/ (検索日:2024年10月30日) ↩︎
  2. Savoirs CDI: Circulaire  no 86-123 du 13 mars 1986 ↩︎
  3. Loi n°89-486 du 10 juillet 1989 d’orientation sur l’éducation.〈https://www.legifrance.gouv.fr/loda/id/JORFTEXT000000509314/2005-04-23/?isSuggest=true〉(参照 2014.10.30) ↩︎

著者
岩崎久美子
公開日
更新日

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