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フランスにおける若者と読書の関係性

立教大学大学院 異文化コミュニケーション研究科 博士後期課程の舘美月です。

 読書は、知的成長に欠かせない活動と考えられてきた一方で、近年、特に若者の読書離れが指摘されることが多くなってきました。これは単なる読書の衰退と捉えてよいのでしょうか。そこで、「Les jeunes et la lecture : une relation en mutation ?」(若者と読書:変容する関係性?)というMinistère de la Culture(フランス文化省)が 2025年1月に発表した報告書に注目し、内容を一部抜粋してご紹介します。

公園で語らうフランスの若者たち(筆者撮影)

調査の背景と目的

 本報告書は、2018年に実施された調査「Pratiques culturelles 2018」(文化的実践2018年調査)のデータをもとに、フランス本土に住む 15〜24 歳の若者の読書(マンガやコミックも含む)および新聞・雑誌などの活字メディアとの関係性を分析したものです。

 この分析では、「自分を読者とみなすか」「読書は紙かデジタルか」「読書のジャンル・言語の多様性」「読書頻度や好み」など、多角的な観点から若者の読書習慣を明らかにすることを目的としています。また、若者たちの読書傾向を、以前の世代と比較することで、世代間の変化や、社会・文化の構造変化が読書に与える影響も検証しています。

ヴィクトル・ユーゴー『ノートルダム・ド・パリ』(Notre-Dame de Paris)で登場するノートルダム大聖堂(筆者撮影)

若者の読書に関する6タイプ

 調査結果によると、15〜24 歳の若者たちは、つぎの六つの読者タイプに分類できます。(図は報告書をもとに筆者作成)

若者と読書の関係性変容の背景

 報告書は、若者と読書の関係が変容している背景として、つぎの三つの点を指摘しています。

  • 文化的実践としての読書の地位低下

 以前は文学や人文学などの教養・文化の基盤として、読書が重視されてきました。一方で、近年では科学・技術系の知識やスキルが社会的に優先されるようになり、実用的・情報収集的・断片的な読書が重視されています。つまり、文化的実践の読書が社会的・学歴的成功の条件として必ずしも、必要ではなくなってきたということができます。

  • デジタル化による若者の余暇と文化実践の変化

 若者の余暇や情報収集の手段、創作活動の場として、テレビや動画、インターネット、SNS、ブログ、ウェブ漫画などの新しいメディアや広いプラットフォームを用いており、「本を読む」以外の文化や娯楽が発達しました。これにより、読書が占める時間や比率が相対的に減ってきていると指摘されています。加えて、若者文化はデジタル・メディアを中心に形成されているため、読書は世界を理解するための一つの方法に過ぎないといえます。

  • 読書の多様化

 読むテキストのジャンルが多様化するとともに、書籍の映画化やマンガ化などによって、文学と娯楽の境界線はあいまいになっていきました。さらに、紙だけでなくデジタルでの読書も台頭してきたことから、読書の媒体の多様化も進んでいます。

まとめ

 本報告書は、よく言われるような「若者は本を読まなくなった」「読書離れが進んでいる」という単純な悲観論を、調査データをもって慎重に問い直すものです。「本を読むこと=正しい読書」という規範的言説と、実際の多様な読書実践との間に大きな乖離が生じており、読書という行為の意味や価値が再定義されつつあると述べています。実際、多くの若者が読書や活字メディアに関心を持っていないのは事実ですが、それは文化や社会の構造変化、メディア環境の多様化、価値観の変化のなかで起きている消費・趣味の再編成の一部と捉えられます。読書そのものが消えたわけではなく、「読むこと」の意味や形態が変わっているのです。

古書も扱っている蚤の市(筆者撮影)

参考文献
Berthomier, Nathalie, Anne Jonchery, and Sylvie Octobre. Les jeunes et la lecture : une relation en mutation ? Ministère de la Culture, 2025. https://www.culture.gouv.fr/espace-documentation/statistiques-ministerielles-de-la-culture2/publications/collections-de-synthese/culture-etudes-2007-2025/les-jeunes-et-la-lecture-une-relation-en-mutation-ce-2025-1(最終閲覧日:2026年1月22日)

著者
舘美月
公開日
更新日

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