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フランスの図書館で働くには(続き):ドキュマンタリスト教員の制度改革

日仏会館図書室の山根沙織です。2月にこちらのspontane.infoで、フランスの公立図書館や学校図書館で働くにあたってどのような道筋があるかを、ざっくりと書かせていただきました(【連載】フランスの図書館で働くには)。

 フランスのリヨン第3大学からアンジェル・スタルデール先生をお招きしての、2日間に渡る講演、フランスの若者の読書(2月13日、於日仏会館)と、フランスのドキュマンタリスト教員について(2月15日、於立教大学)が、立教大学の中村百合子教授、放送大学の岩崎久美子教授、大阪教育大学の森田英嗣教授、日仏会館・フランス国立日本研究所共催、日仏図書館情報学会協力の下、開催されました。

 両日ともに非常に興味深いお話で示唆に富んでおり、1日目の講演会を聞いて、2日目の講演会・交流会参加を決めた方もいらっしゃったのではないでしょうか。両講演会については、後日、記録(テキスト)が立教大学学術リポジトリ(司書課程)にて公開されるそうなので、講演会に参加できなかった方も、参加したけどもう一度内容を確認したい方も、ぜひそちらをお楽しみにしていただければと思います。

立教大学に於て

 さて、本来であれば先日書かせていただいた「フランスの図書館で働くには」が、フランスにおける最新の状況を示しているわけですが、スタルデール先生の講演会によって今年、2026年の9月からドキュマンタリスト教員になるための道筋が大きく変わることがわかりました。

 そこで、「フランスの図書館で働くには④」の内容は2026年2月時点の内容としつつ、講演会の内容にも少しだけ触れながら、2026年9月以降のドキュマンタリスト教員に関する追加の報告をしたいと思います。

アルテルナンス(Alternance)という職業教育制度

 「フランスの図書館で働くには④」の中で、フランスの学校図書館で働くには、ドキュマンタリスト教員という資格を取得する必要があると述べました。そしてその資格取得には、大学等で学士を取得後、まずMEEFと呼ばれる教員養成の修士課程を修め、その後、CAPES de documentation(カペス・デュ・ドキュマンタション)と呼ばれるコンクールに合格する必要がある。と説明したのですが、この流れが今年の9月から大きく変わるようです。

 まず一つ目の大きな変化は、教員になるためのコンクールが修士修了後(BAC+5)ではなく、学士修了後(BAC+3)で受験できるようになるということです。ただし、このコンクールを通過することで教員になれるわけではなく、コンクールを通過することで教員養成のための修士課程に進むことができるようになるそうです。

 そして二つ目の変化は、この修士課程が「アルテルナンス(Alternance)」という職業教育制度を取るようになるということです。

 この改革はドキュマンタリスト教員のみならず、全教科の教員養成に関わるものだそうで、コンクールの受験要件が修士から学士に変更されたのは、教員志望の学生を増やす目的があるのだとか。日本でも「教員志望の学生の減少」という似たような話を耳にしますが、フランスでも教育の現場は多様化しており、個々のケースによる対応の複雑さから、教員の負担は増え、教員を志す人が少なくなっているそうです。また、近年の教員を狙ったテロ行為の増加もその傾向を後押ししているとのこと。そこで、まずは教員になるための敷居を下げ、教員希望の学生を確保するべくこのような施策が取られたというわけです。

 一方、フランスにおいて教育とはただ知識を教えるだけでなく、フランス市民としての市民性を説き、その理念を培う場でもあります。フランス全土どこにいても同水準の教育を提供するため、教員の数を確保するだけでなく、その質をも担保する必要があります。そこで、「教員になるための敷居」は下げても、結果的には以前と同じく2年間の修士プログラムを経て教員になるという、新たな制度が採用されたのです。

 このアルテルナンスという制度は、フランスでは昔から存在しており、一般的には学生が企業と契約を結び、学費は企業が負担、学生は週に2日程度大学で専門知識を学び、残りは契約を結んだ企業で見習いとして働くという制度です。端的に言えば、企業側は長期間に渡って業界知識を持つ労働力を確保でき、学生は学費を免除されながら学校に通って知識を取得、勤務先から働いた分の給与も得られるというメリットがあります。この職業教育制度については「アルテルナンス──フランス版デュアルシステムの新たな潮流」(五十畑浩平、2022)が詳しく説明しています。

ドキュマンタリスト教員「見習い」

 さて、ここでドキュマンタリスト教員に話を戻しますが、今回の改革ではこの「企業」に当たるのが「学校」であり、コンクールに合格した学生はドキュマンタリスト教員見習いとして、2年間、大学教員と現場の監察官(各教科の地域単位の指導者)や現役ドキュマンタリスト教員の指導の下、理論と実践を学び、そしてケーススタディを重ねていくことになるようです。

 スタルデール先生の報告によれば、修士1年目は年間216時間、2年目は年間324時間の現場での実践が予定されているそうです。リヨン第三大学のカリキュラムではこの現場実践に加えて、1年目は320時間、2年目は160時間に及ぶ大学での授業が行われます。

 フランスの大学は概ね前期後期の2学期制、各学期は10週間で構成されているため、修士1年目は大学での講義が週に約16時間、現場での実践が約10時間と概算できます。アルテルナンスではない通常課程の生徒は、だいたい週20時間前後の授業数ですので、それに比べれば週全体での学ぶ時間はやや少ないとはいえ、課題や試験をこなしつつ現場でも働くこのリズムは、なかなかに大変なカリキュラムであると言えます。

 実際のカリキュラムの内容や、これから求められるドキュマンタリスト教員の人物像については、後日公開される講演会記録をご参照いただきたいのですが、質疑応答の中で印象深かった、スタルデール先生の回答を一つご紹介したいと思います。

学校図書館と情報リテラシー教育

 ドキュマンタリスト教員には、主に三つの「仲介する」という使命があり、その中に他教科の教員との仲介という役割があります。生徒が勉強していく上で必要な情報の取得、それらを探す探索能力、そして正しい情報を見極める情報リテラシーをドキュマンタリスト教員は生徒に指導するわけですが、ドキュマンタリスト教員自身は授業数を持ちません。

 つまりフランスのドキュマンタリスト教員は教員として採用されるにも関わらず、既定の授業時間数が振り分けられていないというのです。そのため、上記のような情報教育を生徒にしたいときには、各教科の教員に声をかけ、それぞれの授業時間内に図書室を利用してもらうよう調整する必要があり、また、昨今では学問も非常に細分化、または複合化しているため、政治地理学、環境都市科学のような単一の教科に収まらない文理融合(横断)の学問に興味関心を持つ生徒も出てきています。ドキュマンタリスト教員は時にはそうした、教科の枠組みを超えた「仲介(情報の紹介)」を求められることもあります。そして、各教科の指導プログラムの中でどこ(いつ)が一番図書室に誘導しやすいかなどを見極めるために、全教科の学習指導要綱に目を通す必要があるのです。とおっしゃっていました。

 この話を聞いて驚いたとともに、ドキュマンタリスト教員とはなんと高度で複雑な職業なんだろうと思いました。その衝撃も冷めやらぬままに行われた講演会後の交流会で、スタルデール先生と「日本では学校の中で情報リテラシー教育を誰が担っているのか」という話をする機会がありました。その場にいた人々の見解では、日本では「情報」担当の教員がその役を担っているとのことでした。

 日本の「情報」科目に関する学習指導要領を確認すると、文部科学省が発行している【情報編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説の「5 高等学校の他教科等との関係」に、確かに「他教科等との関連が重要なこと」、そして「学校全体での情報教育を考えるときには,共通教科情報科と他教科等の学習内容や学習活動との関連をよく検討してカリキュラム・マネジメントを行い,効果的な指導計画を立てることが大切」とありました。また、「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図ることも大切」とも書かれているではありませんか。働く場所で考えれば、日本の司書教諭とフランスのドキュマンタリスト教員の役割は似ていそうですが、情報教育という視点で見れば、ドキュマンタリスト教員は日本の情報担当教員の役割と重なるのでした。

 日本もフランスも、学校全体としての教育が目指す部分において似ているところは多々あると思います。しかしそれら教育を担う人々、例えば日本の司書教諭と情報担当教員、そしてフランスのドキュマンタリスト教員など、それぞれの学校の中での立ち位置、求められる役割の違いがあるということに気づけた瞬間でした。

 一方で、「書籍やデジタルメディアなどの情報と情報手段を合わせて利用できるようにした学校図書館を,学習情報センターとして生徒の主体的な学習活動に役立てていけるように整備を図り活用していくこと」の必要性もこの【情報編】高等学校学習指導要領の中では語られており、その学校図書館の整備はまさに司書教諭・学校司書の担うところです。

 学校図書館が「情報」を取り扱う場であることは明白であり、その整備が司書教諭にゆだねられている反面、司書教諭に情報リテラシー教育を担うための養成がなされているか、司書教諭・学校司書にその役割を果たせるかについては、すでに20年以上も前から議題になっています。本講演会を開催された中村百合子氏も、2003年に『インターネット時代の学校図書館 : 司書・司書教諭のための「情報」入門』を編著しており、共同編著者である堀川照代氏は2012年に「学校図書館を活用した教育/学習の意義」を執筆され、その内容・課題は文部科学省への提言にも引用されました。この課題は今でも有識者の間で議論されています。

おわりに

 フランスの図書館についてを述べつつ、またこの記事を書くきっかけになったスタルデール氏の講演会は、フランスの学校図書館を見る・知るためのものでした。しかし、巡り巡って最後には日本の学校図書館について考えさせられるというこの構図はまさに、比較文化の醍醐味だなと「日仏」両国に携わる仕事についている私は独り言ちているわけですが、日本の司書教諭という職業が、学校、そして教育という中でどのような発展を遂げていくのか。そして学校図書館は学習情報センターとして、誰の下で活用されていくのか、今後の動向に益々興味が出てきました。また、フランスのこの教員養成制度の改革、アルテルナンスという職業教育制度は2026年の9月から採用されますが、その制度の下で修士課程に入学する学生の選抜、コンクールはすでに行われたとのことです(2026年の試験期間は1月27日~3月12日。新しい制度以前にMEEFに入学して修学中、修了予定の学生に対してはこれまでと同様のコンクールが、2026年、2027年には開催されるとのこと)。まさに今が過渡期であるフランスの教員養成システムは、今後どのような評価が下されるのか、そして日本の学校図書館と司書教諭にはどのような変化が起きるのか、これからも注目していきたいと思います。

著者
山根沙織
公開日
更新日

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