前回までのブログではフランスの「司書」、カテゴリーによる職員の区分といった仕組みについてご紹介しましたが、ここからはそれに当てはまらない、フランスの学校図書館についてご紹介します。
ちなみに、仕組みに当てはまらないというと私立図書館も、私設または企業などの組織によって独自の目的で運営される図書館のため、前述したようなカテゴリーで区分して職員を配置する必要がなく、図書館(または運営母体)独自の裁量で職員を任用しています。
しかし、多種多様な形態が存在するため、ここで一例だけとりあげ「フランスの私立図書館」と紹介するのは、誤解を招くことにもなりかねないので割愛させていただき、こうした私立(企業)図書館で働く人は、司書というよりもドキュマンタリスト(専門的な内容に特化した、文書のスペシャリスト)と呼ばれることが多いということだけ、お伝えしておきます。

それでは、早速フランスの学校図書館についてご紹介していくのですが、まずはそこで働く人物についてご紹介します。
フランスの学校図書館には日本の司書教諭に似た職業があり、「professeur documentaliste:ドキュマンタリスト教員」と呼ばれる教員がいます。
この職業名は、1989年にCAPES de documentation(カペス・デュ・ドキュマンタション)と言う中等教育の教員採用試験が創設されて以降、学校図書館に配置すべき教員の名称として浸透してきました。
それ以前のフランスでは、学校図書館で働く人のことを「professeur bibliothécaire」、「bibliothécaire documentaliste」、「enseignant documentalste」など、様々な呼び名が存在していたので、調査する資料によっては呼び名が異なり混乱するかもしれません。なぜこのように複数の呼び名が存在していたかについては、後ほど述べたいと思います。
このフランスのドキュマンタリスト教員ですが、その名のとおり「司書」ではなく、教員です。日本の司書教諭も、教員免許を所持し、各県の教員採用試験を通過した者がなれるので、教員という点で共通しています。
しかしドキュマンタリスト教員は、日本の司書教諭と比べると働く場所に違いがあります。どちらも学校図書館に配置されますが、ドキュマンタリスト教員が配置されるフランスの学校図書館は、日本のように小学校、中学校、高校ではなく、中学校と高校のみです。
なぜ中学校と高校の図書館にしかドキュマンタリスト教員が配置されないかというと、それはフランスの教員養成課程の仕組みに起因します。
フランスでは、INSPE(Institut national supérieur du professorat et de l’éducation:国立高等教職・教育研究所)がフランス各地に展開する教職大学院、または認定した大学にて教員になるための修士課程、通称MEEF(métiers de l’enseignement, de l’éducation et de la formation:教授・教育・養成職)を提供しています。

これらMEEFは第1種(小学校)と第2種(中学校・高校)とに区分されており、各教科の養成課程が存在するわけですが、ドキュマンタリスト教員を養成する「documentation(ドキュマンテーション):文書管理」の課程があるのは、MEEFの第2種だけです。
よって、ドキュマンタリスト教員は中学と高校にしかいない、というわけです。
なお、先程紹介した複数の呼び名は、CAPES de documentationが創設される前に学校図書館で働いていた人たちの呼び名であったり、中学、高校以外の場所で類似した業務を行っていた人を指す呼び名です。
例えば、フランスの小学校には、学校図書館と呼べるスペースの設置が義務付けられていないため、小学校の「学校図書館で働く人」は公には存在しないのです。しかし、学校によっては校内の一画に寄付され収集された図書を置くスペースがあり、学級・学年文庫なども存在します。それらを管理する有志(保護者や小学校教員)を指した呼び名もありました。
学校の中の図書スペースという、場所だけを見ればどれも同じ職業を指す呼び名とも言えるわけですが、公式な名称ではない、また、フランスの学習指導要領に変化があれば、教員として求められる資質も時代によって変わるため、「現在のフランスの学校図書館で(求められ)働く人の職業名」と言えば、「professeur documentaliste:ドキュマンタリスト教員」と言うことが適切というわけです。
ドキュマンタリスト教員の資格とは
さて、このドキュマンタリスト教員になるための道筋ですが、何らかの学士(3年)を終えた後、前述したMEEFと呼ばれる修士課程(2年)を修了することが必須となっています。そしてその後、フランスの国民教育・青少年省(Ministère de l’Éducation nationale et de la Jeunesse)によって執り行われる教員採用試験、CAPES de documentationに合格する必要があるわけです。

「フランスの学校図書館には日本の司書教諭に似た職業があり」とこのブログの冒頭で言いましたが、学士以上で教員免許状を所有、5科目10単位の講習を修了して司書教諭資格を持っていれば、教員採用試験を受けてなることのできる司書教諭と、学士に加えてドキュマンテーション専門の修士課程(2年間)を修了し、教員採用試験を受けてなることのできるドキュマンタリスト教員では、求められる学位も、修了する課程も異なります。
自ら言っておいてあれですが、日本とフランスのこの二つの職業を、はたして同列に捉えてもいいのか、という疑問は残ります。この点は今後、注目していきたいと思うところです。
また、ここで思い出しておきたいのが、フランスの「司書」になるための公務員試験を受ける要件が、学士以上だったのに対し、ドキュマンタリスト教員になるための教員試験を受ける要件は、修士以上という点です。
加えて、ENCやENSSIBといった「司書」になるために推奨されていると説明した古文書・図書館の専門的な高等教育機関で修士を修めたとしても、ドキュマンタリスト教員の養成課程であるMEEFを修了していなければ、CAPES de documentationを受験することはできません。
つまり、図書館学よりも、修士以上の学問を修めていること、そして教員であること、かつ文書を取り扱うスペシャリストであるというのが、ドキュマンタリスト教員を構成する上で非常に重症な意味合いを持っていることがわかります。同じ図書館であっても、学校図書館とそれ以外の図書館で求められる学位が異なるというのは、非常に興味深い点だと思います。
フランスのドキュマンタリスト教員は、ただ学校図書館を管理することのできる教員というわけではなく、学校図書館において、非常に高度で専門的な、教員としての技能を発揮する職業であるということが見て取れます。そして取得する資格が「司書」ではなく、学校図書館に特化した教員、配置されるのが中学校と高校のみというのが、その特徴と言えるでしょう。
最後に、「professeur documentaliste:ドキュマンタリスト教員」の日本語訳についても少し見ておきたいと思います。
日本国内でのいくつかの研究報告では、professeur documentalisteは、司書教諭と訳されていることもあります。しかし、前述したようにドキュマンタリスト教員と日本の司書教諭とでは、養成課程、学位、試験の種類も異なっていること、働く場所を見ても、小学校を含むかそうでないかの違いがあります。

2020年にマリー・Dマルテル(Marie D. Martel)氏とその学生達によって編纂された、全部で5巻からなる『Bibliothèques à l’international : un manuel ouvert(国際的な図書館:公開便覧)』を見ても、日本の学校図書館を紹介する箇所で、「Les bibliothécaires enseignants (Shisho-kyoyu 司書教諭)」と書かれていました。
フランス側から見ても、司書教諭はドキュマンタリスト教員とは訳されなかったわけです。「フランスの学校図書館には日本の司書教諭に似た職業があり」とこのブログの冒頭で言いましたが、やはりこの二つの職業は別物として考える方が、誤解なくそれぞれを認識できるかと思われます。
前半のブログで「司書」についても話したように、養成課程の内容、資格の有無・区別せず、働いている場所のみで日本とフランスの図書館、そこで働く人物について話をすると、異なる職能の人々を、同列に話してしまう可能性があります。
このブログでは触れませんが、例えば、日本には学校司書という職業もあります。前出の『Bibliothèques à l’international : un manuel ouvert(国際的な図書館:公開便覧)』では、学校司書は、「bibliothécaire scolaire(ビブリオテケール・スコレール)」と表現されていました。しかし、このフランス語を英語に訳すと、school librarianとなるわけですが、果たして日本の学校司書と、アメリカのschool librarianは同じと考えてよいのでしょうか。またまた翻訳の悩ましいところです。
比較するつもりはなくとも、人は自分の知っているものに置き換えて、またはそれと対比させて、物事を理解しようとすることが多いと思います。
外国の図書館を知ろうとするときも、無意識に「日本の図書館に置き換えると」とイメージしてしまうことが多いのではないでしょうか。
しかしここで挙げた例のように、違いを理解し、安易に翻訳してしまわないことも、対比して考察するときには重要です。

日仏の両図書館を理解していく際には、例えば「professeur-documentalisteはドキュマンタリスト教員で、ドキュマンタリスト教員と日本の司書教諭は類似しているが同義ではない」というように、養成課程、資格、求められる技能と図書館内での役割などを意識しながら調査をすることが、誤解なくそれぞれの図書館を対比し、理解する手助けになると考えています。
さて、そんな日本の司書とも司書教諭とも似て非なるドキュマンタリスト教員に求められる能力とは、いったい何なのでしょう。
リヨン第三大学でドキュマンタリスト養成課程の責任者を務める、アンジェル・スタルデー(Angèle Stalder)氏によれば、知識の仲介(メディアと情報リテラシーについて教えるということ)、文献の仲介(情報の入手先や方法、それらの情報源について)、そして文化の仲介(学校プログラムに関連する機関や団体との提携を通じて、学校を外部に開放する責任)という三つの「仲介する」という能力が重要で、それらを身に着けるためのカリキュラムを組んでいるそうです。
2026年2月15日(日)には、立教大学の中村先生がスタルデー氏をお招きして、このフランスのドキュマンタリスト教員養成課程についての講演会「リヨン第三大学におけるドキュマンタリスト教員の養成」を企画されています。フランスの学校図書館、そしてドキュマンタリスト教員に関心のある方は、ぜひこの講演会にお越しいただければと思います。
以上、参考文献等を明記もせずに、駆け足での説明になってしまいましたが、フランスの図書館、そしてそこで働く人について簡単にご紹介させていただきました。
この記事を読んだ方が、フランスの図書館で働くにはどの様な道筋があり、どういった資格を取得すべきか、何の試験を受けなければいけないか、をイメージすることができ、そしてフランスの図書館に興味を持っていただければ嬉しく思います。


