立田慶裕と申します。この『読書と豊かな人間性』(中村百合子編著、樹村房、2026)という本の講評ですが、一言で私の発表の中身を話すとしたら、この本一冊だけで、十分な知識を司書としては得られないという点です。樹村房の「司書教諭テキストシリーズ」には、「読書と豊かな人間性」という本だけでは足りない情報や知識が『学校経営と学校図書館』やその他のシリーズに載っています。もっぱら、今日、私の話の内容は国際的な動向が中心ですが、国際的な動向については、『学校経営と学校図書館』の方が詳しいです。司書になられる方はやっぱり、司書教諭テキストシリーズは全体を読んではじめて、体系的な知識が身につくことを理解していただくとよいと思います。中村先生にはさらに新たな本を書かれることを期待してます。

私の図書館や学校との関わりですが、図に書きましたように、1980 年に大阪大学の人間科学部の助手になりまして、 5 年間どちらかと言えば、公共図書館の調査研究をずっとやってました。
松原の市民図書館、千里ニュータウンの図書館、あるいは茨城の家庭文庫など、図書館が公共図書館がどうして出来上がり、どんな図書館が生まれていったかという研究が中心でした。東海大学では社会学を教えた後、国立教育政策研究所に移ってからは、生涯学習の研究を専らしました。私自身、生涯学習と言いながら、学びだけでなく遊びも好き好きで、健康の問題、高齢化の問題、グローバル化、メディアリテラシー、国際成人力など、いろんな分野にわたる報告書を発表しました。
特に私自身は、学習の基本は読書だと考えていましたので、読書中心の研究に移っていったんですね。ただ、研究所では、OECDのリテラシー研究と共に、学習の変革の研究をしていました。その一つの成果として今年は、『テクノロジーの教育学』という本を出しました。原典はOECDの教育研究革新センターの研究で、デジタル学習やインターネットが教育に及ぼした影響には大きなものがあり、インターネットの影響も含めて、新たなテクノロジーが教育に及ぼす影響や生成AIをどう取り扱うかという本です。この本にも書けなかったのですけれど、本当にもうこの 10 年間でいろんな理論が進歩していて、技術が進歩しています。例えば、MIT(マサチューセッツ工科大学)、世界で トップクラスの大学ですが、そこに RAISE(Responsible AI for Social Empowerment and Education)っていう組織があります。この MIT RAISEは子供たちにいかに AI を学んでもらうかっていう組織ですが、中でも MIT App Inventorいうアプリケーション、 15 年ぐらい前からできてるんですけど。ソフトですよね。スマホを使って AI のソフトを作り出すという。そんなソフトまでできて、 175 カ国でも 200万人以上が使ってるという。そういう技術が、なんで、この図書館とか、日本でできないのかなという風に思ったりしてます。
読書の研究については、国立政策研究所に 20 年以上勤めている際に、公共図書館の研究から読書教育というもっと広い研究を行いました。たとえば、『読書教育への招待』をまとめたり、青少年教育振興機構で、秋田喜代美さんらとの共同研究で、読書活動と人材育成に関する調査なども行いました。さらにその後、『読書教育の方法』、『読書教育のすすめ』を2冊。『読書教育のすすめ』は、『読書教育の方法』を書き直したものです。両方とも実は、読書の環境をどう作ればいいかをメインにした内容です。さらに、学校段階だけでなく、大学図書館については2024年に『世界の大学図書館』を単著として刊行しました。
大学を退職後は研究費がないので、本の調達は、大学とか公共図書館を中心にしており、本代がかかるんですよね。大学図書館としては、東海大学に在職していたので、退職者として利用しています。公共図書館は、地元の秦野市立図書館をフル活用させていただいております。
『世界の大学図書館』はコロナの時期に執筆したもので、世界の大学図書館を10 大学、有名大学中心ですが各図書館が大学全体の使命や理念とどう関係しているか、また、大学図書館が現在どのような課題を抱えているかを中心に紹介しました。実際に訪問経験があったのは、オックスフォード大学だけですが、IFLAの世界図書館会議などの参加経験を基礎に、パンデミックの期間中で、しかも全然出張費も何もない状況で、ウェブ上で全部調べて書きあげました。

現在、特に10 年以上にわたり力を入れてるのが「イノベーティブな学習環境」の研究です。これは、 OECDの教育研究革新センターが中心になって行われた教育プロジェクトであり、私は国研(国立教育政策研究所)に移ってから、国際的な研究が重要ということで、20年以上OECDの会議に参加したり、ユネスコの研究所理事(8年間)として関わってきました。特にOECD の教育研究は経済発展中心だと誤解される方も多いのですが、教育研究については教育研究革新センターが教育の平等や格差問題の解消、新たな教育改革の開発にすごい力を入れてます。たとえば、「Schooling for Tomorrow」というプロジェクトについては、私もいろいろと邦訳に力を入れました(『教育のシナリオ:未来思考による新たな学校像』)。また、20世紀末から21世紀にかけて行われたコンピテンシーの定義と選択(DESECO)プロジェクトは、『キー・コンピテンシー:国際標準の学力をめざして』の翻訳を大勢の方と共に行いました。この枠組は、2000年から開始されたPISAや2010年前後から開始された国際成人力調査(PIAAC)のベースになったもので、現在では、 OECD 2030 へと受け継がれた研究です。
実は、さらに大きな枠組でいえば、『知識の創造・普及・活用』というナレッジマネジメントの研究も重要です。これは 、20世紀の終わりから 21世紀の初めにかけて行われた研究ですが、知識のマネージメントという点で強調したいことは、図書館が、公共図書館であれ、大学図書館であれ、他の世界の図書館も同様に、知識を単に受動的に学ぶのではなくて、能動的に作り出す、創造的に作り出す場へと変化する、そういう場としての図書館に移行していくと考えています。
例えば、今日、教育方法の議論であまり論じられなかったと思うんですけれど、世界の学校図書館ではメーカースペースやラーニングコモンズとしての役割が大きくなってきています。特に、大学では理工系の図書館では、メーカースペースを図書館の中に作り、いろんな作費、製品や芸術品を作る時に、どう図書を利用するかということ考えてます。また、米国の学校図書館にもメーカースペースを設置している例がみられます。これは、本を何のために使うのかと考えた時に、やっぱり、本も自分の学習、学習活動のために使う教材なのですが、学習のリソースは、本だけでなく、情報であったり、物も含めて考えることが必要なんじゃないかと。
だから、学習のコンテンツだけでなく、リソースの提供も、学校図書館や大学図書館の役割だと思います。そうしたリソースを生み出すためには、学校、家庭、地域社会や企業などの学習のコミュニティが、読書文化を支えるような環境が重要と思います。実際、この点でいつも思い出すのが、出版文化を支えようとしてきた『本の学校』運動の永井秀和さん、本だけに囚われず地域の情報を一生懸命集められていた五十嵐絹子学校司書、地域全体で読書文化を創ろうとされていた高知県土佐町や佐賀県伊万里市図書館の取組です。知識の創造が、学校図書館であれ、大学図書館であれ、知識の伝達だけに囚われず、今後は図書館が知識の創造へと取り組むことが非常に重要と思います。

『学習の環境:イノベーティブな実践に向けて』に出てくる、ILEプロジェクト[ILEとはInnovative Learning Environments、つまりイノベーティブな学習環境]は、21世紀の社会で学習者を中心に強力な学習環境、地域の学習のエコシステムをどう作るかを理論と実践の両面から目指した理論的、実証的、そして実践的研究です。
例えば、代表的な事例ですが、カナダのアルバータ州は最適な学習環境づくりを進めています。その教員のネットワーク形成、ガリレオ教育ネットワークを、シャロン・フリーセン(Dr. Sharon Friesen)さん(探究学習の専門家)が中心に行っています。州の教員全体が、最適な学習環境作りに取り組み、その基準も作っています。アルバータ州にかかわらず、この学習環境のイノベーション、革新的な学習環境はミクロレベル(学校レベル)、メゾレベル(都道府県や州、地方教育委員会)、そして国レベル、国際レベルのマクロレベルの学習環境システムの形成を目指しています。
この研究は、3 段階で行われまして、一つは、まず、学習の理論的研究。これは、認知科学の研究をまとめたものです。20世紀の認知科学をまとめ、七つの学習原理というのを作りました。それから、二つ目が革新的事例の研究。世界の教育システム 125 事例から優れた 40 事例を分析したものです。最後が、実装と変化の研究、世界の26事例の革新的実践を、いかに教育システム、この研究では、学習のエコシステムの持続的な形成につなぐかというストーリーです。
この研究の内容は、『学習の本質』、『学習の環境』へ翻訳が終わり、現在は『イノベーティブな学習システムの構築:学校の新たなデザイン』の翻訳中です。その翻訳の解説原稿として、各国26事例について、この 10 年間の変化を、生成AIの力を借りながら執筆中ですが、各事例ともに学校だけでなく学習の持続的なエコシステムの形成が進んでいます。

その翻訳に続けて、The OECD Handbook for I L Eに取り組む予定です。エコシステムをどう作るか、マニュアル的な内容ですがそれなりに重要と考えています。実際、図書館研究で面白かったのは、学校図書館マニュアルの分析でした。それぞれの学校の方が、学校図書館の調べ学習のコンクールななどで、ちゃんとマニュアルを作成したり、都道府県や地方レベルでもマニュアルが作成され、こうした教材作成が学校図書館の運営や発展にとっては重要と考えています。
(続く)
上記は、2026年3月15日(日)に立教大学池袋キャンパスで開催された公開シンポジウム「「読書と豊かな人間性」の授業内容と指導法の検討」での口頭発表の記録です。

