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フランスの図書館で働くには①

 はじめまして。日仏会館図書室で司書をしております山根沙織と申します。

 私は、2017年からフランスのENSSIB(École nationale supérieure des sciences de l’information et des bibliothèques:国立図書館情報学高等学院)に留学し、「図書館の文化財」におけるスペシャリストになるべく(現実はまだ道半ばですが)、「文字・画像文化(CEI:Cultures de l’écrit et de l’image)」という修士課程でフランスの図書館と文化財について学んでいました。

 2024年に日本に戻ってきて改めて日本の図書館学を学び直しているところ、日仏図書館情報学会を通じて立教大学の中村百合子先生をご紹介いただき、この記事を執筆することになった次第です。

 私自身はフランスの図書館をフィールドに和古書コレクションの研究をしていました。研究のため様々なフランスの図書館へ赴きましたが、正式に雇用されて働いた経験はわずか3か月だけ。フランスの司書や図書館について語るという役目を果たすには、必ずしも適任というわけではありません。

 ただ、日仏の図書館を見聞きし、私自身が体験したこと、そしてフランスで共に学んだ同級生らが現在どうしているかといった事例と、フランスの公的機関が公表している情報をもとに、このブログ「フランスの図書館で働くには」を書いております。

 記事の合間に登場する写真は、昔の同級生に連絡をして、現在通っていたり、働いていたりするフランスの各種図書館の写真です。記事の内容と直接関係のないものもありますが、フランスの図書館の一例としてお楽しみいただければ幸いです。


 では早速、フランスの図書館で働くには、どのような能力を身に付け、どのような資格が必要なのか?を説明していこうと思います、しかし、フランスの仕組みを日本語で表現することは、非常に厄介で難しいことでした。

 なぜなら、「司書」という言葉が表す人物像、また司書「資格」の種類、取得するまでの過程が、日本とフランスで異なっているからです。

 その仕組みをそれぞれの言語で理解はしていても、安易に片方の言語に当てはめて説明をするとは、誤ったイメージ・解釈を与えてしまうことにもつながりかねません。

 そこでこのブログでは、そうした日本語に訳すのが難しいフランスの図書館用語についても折に触れながら、フランスの図書館とそこで働く人々について書いてみました。

 4部構成と長くなってしまいましたが、フランスの図書館で働く人はこんな人たちなんだと、最後までお付き合いいただければと思います。

フランスの国民議会併設図書館

フランスの「司書」という資格

 フランスの話の前に、まず少しだけ日本の司書の話を。

 日本では図書館に精通した知識を有している証として、司書という国家資格が存在します。(この司書資格を取得するためには様々な方法がありますが、このブログではごく一般的な方法、大学で資格を取得することを前提に話を進めていきます。)

 日本の図書館で働く場合、館長や責任者、その他一定の職員に、司書有資格者の配置が義務付けられているケースもありますが、そうではないポストもあるので、司書資格を有していない人も、図書館で働くことは可能です。

 しかし、図書館の運営、図書館に求められる役割や使命を理解し、図書館サービスや情報資源を適切に取り扱うことのできる技能・知識を習得したことを示すこの司書資格は、図書館界において有効な身分証明の一つであり、日本の図書館で働く場合は司書資格を取る、取得を推奨する、という認識が一般的ではないでしょうか。

2025年3月に新設されたリヨン近郊市立図書館の児童向けスペース

 フランスにも、国立・公立図書館、大学図書館、学校図書館、私立図書館、企業図書館と、日本とほぼ同じ形態の館種が存在します。そして、後述する私立図書館、学校図書館を除き、ほぼすべての図書館に「司書:bibliothécaire (ビブリオテケール)」が配置されています。

リヨン近郊ブロン市の市立図書館 
雑誌・大人向けBD(バンド・デシネ)のスペース

 この「司書」は、日本と同様、資格の一つであり、図書館の運営、図書館に求められる役割や使命を理解し、図書館サービスや情報資源を適切に取り扱うことのできる技能・知識を習得していることを示します。

 しかし、日本のように図書館で働くのであれば取得が推奨される資格、というわけではありません。

 フランスでは、図書館内のある特定のポジション・役職に就くために「司書」が必要なのであって、図書館で働く人全員に取得が推奨される資格ではないのです。

 また、司書資格を取得するための道筋も日本と異なり、大学などで司書養成課程を修了すれば得られるものでもなく、繰り返しになりますが、「司書」資格に種類が存在します。

 このように、日本の司書とフランスの「司書」では、その実態に違いがあります。この記事では、その区別を視覚化するため、フランスのそれを意味する場合は「」を付けて「司書」と書いています。


フランスの図書館は各種専門家のるつぼ

 フランスという国はよく、「ディプロム(学位)社会」と言われます。高等教育機関で修得した学位、そしてその専門性が職業に直結するからです。

 そのことから、図書館で働くためにも何かしら図書館に関するディプロム、日本の司書養成課程のようなものがあり、資格取得が求められるのでは?と想像しがちですが、それは正しくもあり、実は少し違います。

リヨン市図書館(BMLyon)の入り口。自然光を取り入れるため、フランスでは本が置かれていない共有スペース付近はガラス張りの図書館が多い印象。

 突然ですが、フランスの図書館にはどのような経歴の人が働いているでしょうか。

 私の同級生や現地で知り合った方を挙げてみると、例えば、今日の図書館において情報を取り扱う技術はかかせないので、情報学に強い人が必ずいました。

 児童部門やAV・音楽部門が充実している図書館では、教育学や、児童サービス・児童心理を修めた人、映像の専門家や音大卒の人が働いていることもありましたし、展示会やイベントも、公立図書館では頻繁に行われていたので、所蔵する自館の資料・コレクションを用いて調査・研究・展示を行う研究者、その分野の専門家も職員として採用されていました。

 全く関係のない分野からのキャリアチェンジで、図書館に転職した人もいれば、高校卒業後、市役所の職員になってから、本が好きだったので研修を受けて図書館に配属された、という人もいました。

 しかしやはり、「図書館」や「本」に精通している人材が望まれやすいのか、ENC (École nationale des chartes:国立公文書学校)やENSSIBの卒業生、大学で書物や文学の歴史、ドキュマンタリスト、出版などの学問を修めた人が、多く働いていたような印象があります。

 このように、私が出会った人だけでも図書館で働く人の経歴は千差万別で、ディプロムで見てみれば、高卒、学士、修士、時には博士。専門分野も図書館学とは全く違う人が集まっているというのが、フランスではごく自然なことでした。

 では、この全ての人が「司書」だったかというと、そうではありません。

 フランスにおいて「司書」であることは、ディプロム、つまり高等教育機関での養成課程に起因するものではなく、別の要因において成り立つ資格なのです。

 その要因とはいったい何か。次回のブログでは、フランスの公立図書館について説明しながら、フランスで司書資格はいつ付与されるのか、その要因を見ていきたいと思います。

著者
山根沙織
公開日
更新日

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