フランスの公立図書館では、職員を大きく3つのカテゴリー、A、B、Cに分けて採用しています。
カテゴリーA、Bは管理職に値するポストの人々、いわゆる館長や副館長です。
館長、副館長だけでなく、「図書館サービスや情報資源を適切に取り扱うことのできる技能・知識」を必要とする場合に、図書館の規模によっては部門長やその補佐、技術職などのポストも、管理職に区分されることもあります。
カテゴリーCは、カウンター業務や書庫管理人といった、ある一つの業務に特化して採用された図書館職員のことを指します。
図書館職員というと、日本では司書資格の有無を明確にせず、「図書館で働いている人」全体を指すこともあるので、ここではフランスのそれを、管理職に対して一般職(専門職)と呼ぶことにします。
前者のカテゴリーA、Bの職に就く人は、ある分野に特化したスキルがあったとしても、図書館全体の運営、サービスについて管理することが求められる一方、後者は一般職(または専門職)として採用されるので、管理職のような業務やチームの取りまとめといった仕事は発生しません。 よって、どれだけ勤続年数が増えたとしても、のんびり働きたい人はカテゴリーCのまま。
業務のレベルを上げたい(昇進したい)、給与水準を上げたいと考える人は、上のカテゴリーの職を目指して、研修や、再度採用試験を受けなおしたりするのがフランスの一般的な「キャリアアップ」です。そのため20代、30代では、数年に一度転職するのが当たり前でした。

このように、カテゴリーによって求められる資質がフランスの図書館では異なるわけです。この求められる資質で対比するのであれば、日本の司書(有資格者)は、フランスのカテゴリーA、Bの図書館職員に相当すると考えることができるかもしれません。

でも日本の場合はカウンター業務に従事する人の中にも、司書有資格者がもちろんいるわけで。フランスのカテゴリーCの一般職(専門職)、例えばカウンター業務に従事する人は「司書」ではないのか?という疑問も当然出てきます。
またさらにやっかいだったのは、仏日の辞書を引けば「bibliothécaire(ビブリオテケール)=図書館職員、司書」とあったことです。
bibliothécaire(ビブリオテケール)の一言で、日本の司書資格の有無を区別せずに表現しているため、このフランスの図書館におけるカテゴリーの仕組みの説明(日本語への訳)が、非常に難解になっていました。
ここが、非常に線引きの難しいところでした。
管理職ではない一般職(専門職)のフランス人は「司書(bibliothécaire)」ではないのか。
この問いについては、「司書」という言葉の定義付けや訳のゆらぎもあるので、私自身も非常に頭を抱えたところです。
現状の仏日(日仏)の辞書にある訳では、図書館でカウンター業務をしている人は「ビブリオテケール(司書)ではない」と、言い切ることは難しいでしょう。
しかし、フランスのカテゴリーC、つまり一般職(専門職)は、「司書」に求められる資質を有していないので、司書資格を持っていない、つまり「司書」ではないということも事実です。
辞書の訳を訂正するような大それたことはこのブログでできることではありませんが、この、カテゴリーA、Bの職に就いている人々を「司書」と呼び、そうでないカテゴリーCの職の人々を「司書ではない」という提言を、フランスの公立図書館に就職する際の採用試験を例に試みてみます。
フランスの公務員試験と司書資格
まず、フランスの公立図書館には管理職と呼べるカテゴリーA、Bの「司書」がいることは、すでに紹介しました。この「司書」のことを、上級司書(カテゴリーA)、司書補(カテゴリーB)とこれまでの調査・研究報告で報告されていますので、このブログでも適宜、この名称を使用していきます。
この上級司書、司書補には、さらに国(パリ市含む)と地方で種別が区分されており、国の上級司書は、国立(またはパリ市立、公営)図書館のカテゴリーAの管理職へ、地方の司書補はその地方の公立図書館で採用されるカテゴリーBの職に就く、というような仕組みが存在するわけです。
国と地方という言葉から察した方もいるかもしれませんが、フランスの公立図書館の「司書」は、公務員です。司書職に特化した公務員試験(正確な対比ではないですが、イメージとしては日本の公務員試験第1種や第2種に相当)を受験し、合格した人のことを指します。
つまり、フランスにおいて「司書」の資格とは、日本のように高等教育機関で指定要件科目を修得すれば自動的に付与される資格ではなく、年に一度の(国、または地方によって時期は異なりますが)これら司書職の公務員試験に応募し、合格することで得られる資格なのです。

これが、前回のブログで、フランスにおいてディプロム(図書館学に関する学位)が「司書」になるための要因ではないと説明した所以です。
なお、一般職(専門職)も、もちろん公務員にあたります。よって試験は公的に行われますが、カテゴリーAやBの公務員試験のように数時間、1日かけて行われる筆記試験や口頭試問はありません。
カテゴリーCの試験では、いわゆる採用試験のような書類審査+面接または小論文等の二次審査が一般的です。
また、上級司書、司書補の受験資格には学士以上の学歴を有する者という決まりがある一方で、カテゴリーCは高校卒業またはそれに相当する学歴の者と定められています。

このように、フランスの公立図書館で働くには必ず公務員になるための「試験」を通過する必要があるのですが、上級司書、司書補の場合は、一般知識だけでなく「図書館の運営、図書館に求められる役割や使命を理解し、図書館サービスや情報資源を適切に取り扱うことのできる技能・知識」も試される難易度の高い公務員「試験」である一方、カテゴリーCの場合は、そのような資質を試験で問われることはほぼなく、採用「試験」のみで図書館に就職することが可能です。

筆記試験や口頭試験があると、それに合格したら、「資格を取得する」というのは、おそらく誰もがイメージできる光景かと思います。しかし、採用試験に合格して、「資格を取得した」というのはどうでしょうか。日本でもあまり言わないでしょう。
以上のことから、「フランスで司書資格はいつ付与されるのか」という問いに対して、カテゴリーA、Bの公務員試験に合格した時から、と言うことができます。
私の周りでも「司書のcertificat(資格)に合格したよ!」と報告してくれた友人は、そのほとんどがカテゴリーA、Bに合格した時だったので、おそらく、フランス人も同じ認識だと思われます。
これが、カテゴリーAとBの管理職は「司書」であるが、カテゴリーCの一般職(専門職)は「司書」ではないと定義した理由です。
紆余曲折しましたがまとめますと、フランスには図書館で働きやすくなる養成課程(ディプロム)はあるが、司書資格を得るための養成課程(ディプロム)はない。筆記・口頭試験があるカテゴリーA、Bの公務員試験を受け合格することで、「司書」資格を持っていると表現されるわけです。
養成課程(必修の認定科目)を修了することで得られる日本の司書資格と、公務員資格を突破してようやく得られるフランスの司書資格。この「資格」の性質の違いを理解することが、日仏の図書館とそこで働く人の役割、技能を正しく知るために重要だと思います。

