私どもの科研費研究の趣旨
立教大学の中村百合子です。本稿では改めて、このSpontane.info設置の資金源である科研費研究の趣旨と進行状況をお伝えしたいと思います。
私は、2018年度から「グローバル水準の学校図書館専門職養成カリキュラムの開発研究」に対して、また2024年度から「学校図書館司書教諭養成の持続的質向上の基盤形成」に対して、科学研究費補助金(通称・科研費)を受けて、日本の学校図書館専門職養成の高度化を目指した研究を進めてきました。前者は大阪教育大学所属の教育工学者、森田英嗣先生と中村で行いました。そして今は、独立行政法人青少年教育振興機構青少年教育研究センターのセンター長を務めておられる、放送大学名誉教授で、成人教育学の研究者の岩崎久美子先生に加わっていただいて、三人で取り組んでいます。以前はTANE.infoを、今回はSpontane.infoを起ちあげ、研究を研究として学会発表や学会誌や紀要といった主として研究者がアクセスする場だけでなく、より広く見ていただける形での情報発信を心がけて行ってきました。
二つの科研費研究で一貫させている柱は、国際調査です。前の科研では北米(アメリカ合衆国、カナダ)、スペインを、今回の科研では韓国とフランスを中心に調査しています。今年2026年2月には、フランスのリヨン第三大学からアンジェル・スタルデール先生をお呼びしました。日仏会館・フランス国立日本研究所と立教大学学校・社会教育講座司書課程が共催するという形で、13日(金)には日仏会館で、15日(日)には立教大学池袋キャンパスで、公開講演会を開催しました。その講演録はフランス語原文も日本語訳も、今年5月に発行した立教大学司書課程の紀要St. Paul’s Librarianに掲載しています。また、岩崎久美子先生から、スタルデール先生の二つのご講演のふりかえりを本Spontane.infoに寄稿していただきました。今、同じ2月、これから4か月後に、韓国からお二人の研究者を招聘して、韓国の学校図書館の動向や専門職の「司書教師」の養成についてうかがう計画を進めています。どうぞお楽しみに!
本科研費研究では、今年のフランスからの招聘のような、9年ほど前からはじめた国際的な調査を継続してその結果を参考にしつつ、日本の学校図書館専門職養成を再検討し、またそうした検討が持続性をもって、養成に携わる人たちによって自主的に継続されるようになることを目指しています。そのための、このSpontane.infoは、研究者の一方的な情報発信ではなく、司書教諭資格付与科目の科目担当者誰もが情報を発信でき、交流できる場として、起ちあげました。ですから、ぜひとも、みなさんに記事を投稿していただきたいと思っています。
現行の日本の学校図書館専門職養成
さて、だんだんと私よりもずっと若い方たちが司書教諭養成に携わるようになってきて、現行の養成カリキュラムの誕生経緯を実感をもって知らない方たちが増えてきたように感じています。そこで、ちょっとその原点をふりかえってみたいと思います。これが本研究の、養成の高度化を検討したい、という研究動機の原点だからです。
司書教諭資格取得には必修科目が5科目ありますが、その構成は、1998年に文部科学省令である学校図書館司書教諭講習規程が改正されて以来のものです(文部科学省によるその時の通知)。この時の講習規程の改訂は、1997年に学校図書館法が改正され、2003年度から12学級以上の学校に司書教諭が必置になったことが背景にあります。その時に文部科学省が設けた「学校図書館の充実等に関する調査研究協力者会議」が、1998年に報告書「司書教諭講習等の改善方策について」を提出し、今の5科目10単位のカリキュラムを導いたわけです。この時の調査協力者会議のメンバーは、当時の学校図書館関係者が幅広く集められている印象で、すばらしいメンバーだったと思います。「司書教諭講習等の改善方策について」はインターネット上にはありませんが、国立国会図書館デジタルコレクションで検索すると複数の雑誌に全文掲載がされていて読むことができますので、関心がおもちの方はぜひ見てみてください。この時のカリキュラム改正の時代背景は、昨年2025年11月に持たれた、文部科学省の「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議(第8回)」における、堀川照代先生のご発言にもよく整理されています。
この時期、1990年代後半から2000年代初頭というのは、1995年のWindows95の発売などを受けて日本の家庭にパソコンが普及し、2000年前後にはインターネット接続も一般化し、日本社会が急激にデジタル化した時代ですよね。そして、2003年にはPISAショックと呼ばれる事態が起きました。政府は精力的にその対策をしていました。これも、学校図書館や司書教諭への期待、関心につながっていたと思います。当時、衆議院議員だった、児童文学作家の肥田美代子さんの活動も力強かったと思います。

私はこの時の、すでに28年前という昔の司書教諭養成制度が、なんだかんだと言われながらも続いてきたことをどう評価すればいいのか、ずっと考えています。この時の改革は、新しく出てきて急速に普及したデジタルメディアへの前向きな対応ということが当然、大きな目玉でした。科目の新旧対照表を見てもそれは一目瞭然なのではないでしょうか。新科目のうち2科目に「メディア」ということばが入っています。
司書と司書教諭は異なる専門職であるべきか?
そしてもう一つ、この時のカリキュラム改正でとっても大きかったと私が思っているのが、司書養成のためのカリキュラムと司書教諭養成のためのカリキュラムの分離です。これは、教諭であるところの学校図書館専門職を成立させるための手立ての一つだったと理解されます。
以下の表には、前に触れた、文部科学省作成の学校図書館司書教諭講習規程に定められる資格付与カリキュラムの新旧対照表を左の2列に置きました。そのうえで、右列には現在、司書資格取得のために定められている「図書館に関する科目」の中で、中央列の科目の履修に読み替えが許可される可能性のある科目を並べました(大学から文部科学省への事前相談や報告は当然必要です)。そして、一番左の列に並ぶ科目のうち、イエローマーカーを引いたのは、旧い司書教諭資格取得のための必修科目のうち、図書館法に定められる司書の資格取得の科目の単位取得で読み替えることができなかった科目です。その数は二科目に限定されています。
| (旧)学校図書館司書教諭講習規程科目 | (新=現行)学校図書館司書教諭講習規程科目 | 左列の科目と読み替えられる図書館法施行規則の「図書館に関する科目」 |
| 学校図書館通論(1単位) 学校図書館の管理と運用(1単位) 学校図書館の利用指導(1単位) | 学校経営と学校図書館(2単位) | なし |
| 図書の整理(2単位) 図書以外の資料の利用(1単位) 図書の選択(1単位) | 学校図書館メディアの構成(2単位) | (旧)図書館資料論→(現行)図書館情報資源概論(2単位) (旧)資料組織概説→(現行)情報資源組織論(2単位) |
| 学校図書館の利用指導(1単位) | 学習指導と学校図書館(2単位) | なし |
| 児童生徒の読書活動(1単位) 学校図書館の利用指導(1単位) | 読書と豊かな人間性(2単位) | 児童サービス論(2単位) |
| 図書以外の資料の利用(1単位) | 情報メディアの活用(2単位) | なし |
つまり、1998年の学校図書館司書教諭講習規程の改正より前には、司書の資格を取得すれば、あと1単位科目を2科目を履修するだけで、もちろん別途、教員免許状の取得は必要だけれども、司書教諭の科目が取得できたということです。現行の司書教諭講習規程では、「学校経営と学校図書館」「学習指導と学校図書館」「情報メディアの活用」の各2単位科目の履修が資格取得に独自に必要になっていて、以前よりも、学校図書館司書教諭資格のためのカリキュラムは司書のためのそれと離れています。これは、この新カリキュラムを提案した「司書教諭講習等の改善方策について」の本文にも、意図的に行われたことがt着のように記されています。
(前略)現在の司書教諭講習を見ると、公共図書館の司書資格を有する者については大幅な単位の読替え措置があるため、あたかも司書教諭資格が公共図書館の司書資格の付加的なものに過ぎないがごとき印象を与えている。
司書教諭の資格が他の資格と隔絶したものでないことは当然であるが、本来、司書教諭の資質向上は、教諭として求められる資質能力、言い換えれば教育職員免許や現職研修と深く関連して論じられるべきものであり、現行のような大幅な読替えは、司書教諭の使命・役割に対する学校関係者の理解を誤らせるおそれがあるものと考える。
図書館法は名前は「図書館」を冠していますが、中 -具体的には同法第2条にある司書の「定義」- をよく読むと、公共図書館法です。司書の資格は、公共図書館の「専門的事務に従事する」職員の国家資格です。公共図書館と学校図書館には異なる専門職が必要であるというのは、1953年の学校図書館法制定時に「司書教諭」という「司書」と違う職を制度化したところにはっきりしています。養成制度も別個に作られた。それをほんとうに実現した方がよかろう、というのが1998年の判断だったと思われます。この適否は、議論できるところでしょう。むしろ近年は、文部科学省をはじめとして、学校と社会をつなげる取り組みが行われており、学校図書館と公共図書館も連携を強化することが期待されています。
