一口に司書資格と言っても、フランスにおいてはその資格取得にあたって辿るべき道が違う。ということは前回のブログで説明しました。その際、フランスの「司書」を定義するには、日本語の既存の訳では表現が難しいということもお話しました。
今回はその言葉のゆらぎ、特に「資格」という表現について、また別の角度で見てみようと思います。そして、フランスの「司書」に実際いくつの種類があるのか、そしてフランスの図書館で働くということについてお話していきます。
繰り返しになりますが、フランスの図書館に関連する事象を日本語で表現しようとする時(またはその逆もしかりですが)、無理に翻訳することで、その意味するところにずれが生じてしまうことがあります。
また、過去においては正しく表現できていた訳も、社会制度や図書館の変化によって、今日のそれを適切に捉えることができないということもあるでしょう。例えば、フランスの図書館で働いている人を「bibliothécaire(ビブリオテケール)」と称し、それを「司書、図書館員」と訳すことについても、前述のようにフランスのそれにはカテゴリーの違い、「資格」の有無があるため、日常的な会話の中では問題はないかもしれないが、昨今の資格制度を踏まえて専門的な話をする際に、果たしてこの訳のままでいいのか?と疑問に感じることもあります。
そのような難しさの一例として、すでに既出のフランスの図書館における管理職、上級司書と司書補について見てみましょう。
前回のブログから、カテゴリーA、Bの管理職を日本語では上級司書、司書補と言うと言っていますが、では「上級司書と司書補というフランス語は?」と聞かれると、非常に困ってしまいます。私には、一言で回答ができません。
その理由は、フランス語だとそれらを表す固有名詞が何種類もあるからです。

2024年にフランスの文化庁から発行された「Guide Les métiers, la formation et les concours des bibliothèques:図書館に関する職業、養成そして試験についてのガイドブック」には、カテゴリーA(A+もあります)、B、Cの職業を、公務員試験別(国と地方)に表したマトリックスが掲載されています(右図)。この図で言えば、上2段のカテゴリーA+とAが上級司書にあたるわけですが、ご覧のとおり8種類もの名称があります。
これが「上級司書のフランス語表記は?」と聞かれても、すぐには回答できない理由というわけです。
カテゴリーCに関して言えば、さらに複雑で、「bibliothécaire(ビブリオテケール)」とも表記されなくなり、それぞれが担当する業務の内容を冠した名称になります。

この職業(司書資格)の種類の多さがもたらす、別の困りごともあります。それはフランス人の「司書」に出会って自己紹介をしてもらう際に、彼らも自らを名乗る際の名称が定まらないという事態です。
カテゴリーによって必要とされる司書資格が指定されているとは言え、役職名は図書館によって異なることもあります。また、図書館の規模によっては同じ上級司書(カテゴリーA+またはA)の司書有資格者であっても、「directeur(ディレクター):館長」、または部門の「responsable(レスポンサーブル):責任者」で違います。図書館の規模が小さいところでは、「responsable:責任者」はカテゴリーAではなくBの役職だったりもします。
同業者同士であれば察しもつきますが、そうでない人との場合、図書館の規模はイメージできず、ましてや異業種のカテゴリーについても詳しい人はそうそういないので、(役職を見せびらかしたくないという意図もあり)、自らを「図書館の人」という意味で「bibliothécaire(ビブリオテケール)」と名乗ることがあるわけです。
このように日本語でフランスの図書館について、フランス語で日本の図書館について説明しようとすると、まずはこうした語彙の定義の難しさ、訳のゆらぎに直面するわけです。これに関してはフランスに限らず、外国の図書館を日本語で紹介する時、おそらく誰もが直面する大変さかと思います。
この点について突き詰めようとするとこの記事が終わらなくなってしまうので、本稿では割愛させていただきますが、フランスの図書館に興味関心のある方は、ぜひ日仏図書館情報学会、または日仏会館図書室までお越しいただき、関連書籍等に目を通していただければと思います。
ちなみに、フランスの公立図書館で管理職として働くには、公務員試験を通過する必要があることは先に述べました。しかし、実際には公務員試験に通過していなくても(つまり「司書」でなくても)管理職のポストに就く方法があります。
それは「contractuel(コントラクチュエル)」と呼ばれる契約職員、嘱託職員のポストに応募して採用される方法です。


管理職のポストに就いている人が産休・育休などの事情で長期休職する場合、公務員試験の合格者が足りず、「司書」が必要なポストに十分な人数が足りない場合、一時的に創設された業務の有期限ポストなどは、コントラクチュエルという採用枠で求人が出され、その人員を補うようになっています。
コントラクチュエルの求人は、一般的な求人サイトに掲載され、希望者はそのサイトから直接応募ができます。管理職の求人である場合、もちろんそのポストに相当するカテゴリーの知識・能力が求められるわけですが、司書資格の有無は不問とされます。
上級司書や司書補の公務員試験を受験するには、実務経験(年数)が条件となることもあるため、受験を考える人はこうしたコントラクチュエルの職を転々とし、経験を積み重ねていくのが、いわゆるストレートに「司書」になるパターンです。私の同級生では、ENSSIB卒業後(22歳前後)からこうした職に就き、2024年から2025年に司書資格を取得(28歳前後)したという報告を受けました。30代で館長職を担っている人がいるというのも、フランスの公立図書館の特徴の一つではないでしょうか。
このコントラクチュエルは有期限雇用であるため、それのみで滞在許可証を得ることは私の知る限り難しい(かなりのレアケース)、婚姻などの事由で滞在許可証ありき、ではありましたがこうした契約でフランスの図書館で働く外国人もいました。興味のある方はぜひトライしてみてはいかがでしょうか。
行き当たりばったりの説明でしたが、以上でフランスの公立図書館で働くにはの紹介を終わりにし、次はフランスの学校図書館についてご紹介したいと思います。
