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子どもはどこで読書材に出合うのか(後編)

立教大学の中村です。「子どもはどこで読書材に出合うのか(前編)」の続きです。前編では、家庭と書店について書きました。後編では、図書館と文庫という場を見てみたいと思います。

 文部科学省が3年おきに実施している社会教育調査において、公共図書館の設置状況が調べられています[1]。2021(令和3)年度の調査によれば、同年10月1日現在で、47都道府県のすべてに都道府県立図書館があり、本館・分館を足して59館があります。市町村立図書館は全国の市町村の77.1%に最低1館が設置されており、無図書館自治体は約22.9%ということになります。前編で書いたように、2024(令和6)年8月時点で書店の無い自治体は27.9%と言われるので、書店もない、図書館もない市町村があるのでしょう。

 ちなみに、学校図書館は学校図書館法第3条に「学校には、学校図書館を設けなければならない。」とあって小学校から高校までの学校には必ず設置されています。しかし実は毎日開館されているわけではないことが、文部科学省の「学校園書館の現状に関する調査」(全国の都道府県教育委員会等を通じた悉皆調査)で明らかになっています。以下の表は、公立学校における学校図書館の開館の状況及び図書の貸出状況(令和元年度末現在)です。中学校は、授業日でも6~7日に1度は閉じているようです[2]

授業日数のうち
開館日数の割合(%)
長期休業日数
のうち開館日数
の割合(%)
小学校94.316.9
中学校84.616.7
高等学校93.150.5
特別支援学校小学部93.225.2
中学部93.225.6
高等部91.324.8
義務教育学校前期課程93.322.4
後期課程92.721.5
中等教育学校前期課程94.154.4
後期課程93.157.7
合計92.331.6

 さて、公共図書館に話を戻すと、日本図書館協会(JLA)が毎年刊行している『日本の図書館:統計と名簿』には、小学生以下の登録者数、蔵書冊数や貸出冊数(児童書やそのうちの絵本・紙芝居)、担当職員数等の調査結果があります。例えば、2024(令和6)年の調査で、「児童」についての数値を回答した全国の公共図書館の約4億7千冊の蔵書のうち児童書は約1億2千5百万冊で約26.7%にあたり、一方で貸出点数は全6億7百万冊のうち2億7百万冊、約34.2%です[3]。これは想像どおり、という人が多いかもしれないですが、児童書の回転率は一般書よりも高いということです。子どもの旺盛な読書欲求に公共図書館が応えています。

 「ポストの数ほど図書館を」という1960年代以降によく聞かれた標語にもあるように、子どもたちが自分で行くことのできる距離に図書館があるのは理想です。しかし実際にはそれほどの数の図書館設置は実現困難で、だからこそ学校図書館は重要になります。また、各地の市町村立図書館は団体貸出などをとおして、学校の他にも保育園・幼稚園・学童保育や、事業所・施設、市民サークル等を支援し、子どもたちはそれを利用しています。

 都道府県立図書館は各都道府県に1館というところがほとんどですが、独自の貢献を目指しています。例えば、滋賀県立図書館同館児童図書研究室)や岡山県立図書館同館児童図書研究室)など、市町村立図書館等の選書の支援策の一貫として新刊の児童書の全点購入が行われているところがあり、県下の図書館等の児童書の選書業務等に活用にされています。また、市町村立図書館の児童サービスの初任者を対象とした研修や、学校(図書館)への各種の支援を行う都道府県立図書館もあり、子どもたちにとってより身近な市町村立図書館や学校(図書館)のサービスや資料の充実が間接的に図られています。

 前述した、文部科学省の社会教育調査で、前年度に各公共図書館が行った事業についても聞いています。公共図書館全3,377館のうち、18歳以下を対象として、読書会・研究会、鑑賞会・映写会又は資料展示会のいずれか一つでも実施している図書館は60%弱に過ぎませんでした。児童書のコレクションはあったとしても、事業にまで手が回っていない図書館は思いのほか多いようです。それを、地域の大人たちがボランティアで子どものためにお話会を担当したり、図書館外でさまざまな活動をとおして支えたり、補完したりしている例が各地でみられます。

子どもが隠れる場所は重要その1:気仙沼図書館の児童コーナーにはかわいらしい、穴倉のような場所が

 「文庫」という、必ずしも分類・目録作成等の組織化はよくされてはいないかもしれないけれど、何冊か(数十、数百、数千かもしれない)の図書が一つところにまとめられて、利用に供されるという取り組みが日本では多様に行われています。元来、文庫(訓読み「ふみぐら」;音読み「ぶんこ」)は書庫を指していましたが、現代ではその意味で使われることはまれでしょう。子どもたちにとって身近なものとして、学級文庫・家庭文庫・地域文庫・子ども文庫があって、それらの方が「文庫」ということばから連想されるのではないでしょうか。

 学級文庫は学級(教室)の一角に置かれている図書のコレクションです。学級文庫の全国調査はないが、地方自治体がその重要性を認識して、子どもたちの利用状況等を調査している例があります。学級担任が「朝の読書」で読むものの選択肢といった意味から置いていることが多いようで、選書に悩む教員を支援する意図か、実はいくつかの出版社が朝の読書に最適のコレクションと謳って、「学級文庫セット」を作って販売してもいます(どのくらい売れているのか、興味ある…)。

 同じ「文庫」と言っても、家庭文庫・地域文庫・子ども文庫は、学校外、地域社会において運営され、学級文庫よりもふつうは規模が大きいです。吉田右子は、1950年代からの黎明期、児童文学者が運営する家庭文庫が多くみられたと述べています[4]。そのような児童文学者の一人であった石井桃子は、1958(昭和33)年に東京・荻窪の自宅にかつら文庫を開き、その実践をもとに1965年に『子どもの図書館』(岩波書店)を著しました。これが大変な反響を呼んで、全国で母親による文庫の設置が広まったと言われます。文庫は公共図書館が発展すれば不要になり衰退すると一部には思われたが、実際にはその小ささや地域とのつながり、濃厚な人間関係から、公共図書館とは異なる雰囲気や運営が実現して、日本各地に根づいています。

子どもが隠れる場所は重要その2:米国ニューヨーク州セネカフォールズ図書館(英語のHP)の児童コーナーにはテントが

 公益社団法人読書推進運動協議会の2018(平成30)年の調査によれば、いわゆる文庫は、子どもを主たる利用者に想定しないものも含めてではありますが、全国に千館を超えていました[5]。地域文庫は地域のグループによって運営され、家庭文庫は個人が家庭を解放して運営されると言われますが、二つは容易に区別できない例もあって、総称的に「子ども文庫」という呼び方も広く使われています。 子ども文庫はとても日本らしい活動ではないかなと私は思っています。この伝統は、公共図書館や学校図書館の充実とともに、続いてほしいと願っています。


[1] 「88 図書館における事業実施状況」[文部科学省].「令和3年度 社会教育調査 図書館調査」[統計センター],no date(参照2025-9-19).

[2] [文部科学省]総合教育政策局地域学習推進課「令和2年度「学校図書館の現状に関する調査」の結果について」同課,2021.7.29(参照2025-9-20).

[3] 日本図書館協会『日本の図書館:統計と名簿』同協会,2024,p. 25.

[4] 吉田右子「1960年代から1970年代の子ども文庫運動の再検討」『日本図書館情報学会誌』50 巻3 号,2004.9, p. 103-111.

[5] 読書推進運動協議会編『全国読書グループ総覧:読書会・文庫・実演グループ・研究会・連絡会など』同協議会,2020.

著者
中村百合子
公開日
更新日

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