フランス・ナントにおける青少年読書支援活動

放送大学の岩崎久美子です。中村百合子先生が研究代表者をされている科研の調査で、2024年2月にフランス・ナントを訪問しました。中村先生の長年の研究仲間のナント大学のクリスチーナ・コレロ先生(Dr. Cristina Correro)[注]をご紹介いただき、コレロ先生とメールのやり取りをし、いざナントへ!

 コレロ先生とナント駅改札で待ち合わせをすることになり、パリ・モンパルナス駅から電車に乗ろうとプラットフォームを目指していたそのとき、駅構内にアナウンスが入りました。持ち主がわからない荷物が発見されたとのことで、突如、ものものしく黄色いテープがはりめぐらされ、駅にいる人々が構内から一斉退去を求められたのです。オリンピック前の過度の警戒感とのことでしたが、立ち尽くす人々の雑踏にあって「困ったな」と孤独になりました。運よく2時間弱で待機解除となり、無事、ナント駅で笑顔のコレロ先生とお会いできたときは涙が出そうでした。

 コレロ先生はとてもフレンドリーな先生で、学校図書館の訪問、オンラインでの学校図書館関係者とのセッション、そしてご自身も参加している子どもの読書活動を推進する団体の主宰者との懇談など、短い日程にたくさんの貴重な経験ができる機会をつくってくださいました。今回はその一端をご報告します。

1.ガブリエル・ギストー高校(Lycée Gabriel Guist’hau)学校図書館

 フランスの学校図書館専門職は、ドキュマンタリスト教員(professor documantaliste)と呼ばれ、中学校の教科担当教員と同じ資格や地位を有しています。ドキュマンタリスト教員については、國学院大学教授の須永和之先生が論文等で数多く論述されておりますし、また、須永先生が中心になって実施された全国学校図書館協議会フランス学校図書館研究視察団訪問の報告書『 フランスに見る学校図書館専門職員: ドキュマンタリスト教員の活動 』(2012年)に詳しく紹介されておりましたので、それらの先行研究を参考にして調査をすることにしました。視察団が訪問して10年後の現在、まずはドキュマンタリスト教員の実像を知るため、コレロ先生とともにガブリエル・ギストー高校の学校図書館を訪問しました。

最初に驚いたのは、古い石造りの高校の建物の入口の自動のセキュリティ設備です。10年ほど前にフランスで訪問した高校では受付の人が居ただけだったと思います。左の写真のとおり、IDカードがないと中に入れません。考えれば、フランスのアパートもセキュリティコードがあるのが普通なので、このことは当たり前なのかもしれません。

高校の玄関入口のセキュリティ
図書館内部。学生が勉強しています。

 ガブリエル・ギストー高校のドキュマンタリスト教員は2名。お話を伺ったシモン先生によれば、ドキュマンタリスト教員は、探究学習などの生徒支援、教科担当教員と連携した資料提供などを行う仕事とのことです。教科担当教員のように生徒指導や保護者対応を直接行わなくて良いこともあって落ち着いて仕事ができ、満足しているとのことでした。ここで、科研の仕事として質問紙調査への回答依頼と同僚への質問紙配布のお願いをしました。もちろんご快諾。結果、31人のドキュマンタリスト教員の方に回答していただきました。感謝です。

 ガブリエル・ギストー高校の学校図書館は、ドキュマンタリスト教員としてシモン先生が在室していることや生徒が自習していたこともあり、活気を感じました。

ドキュマンタリスト教員シモン先生と話が盛り上がるコレロ先生

2.ナント児童文学協会(L’association Nante Livres Junes

 ナント市立図書館(Bibliothèque municipal de Nante)の建物の一角にナント児童文学協会が入っています。コレロ先生のおすすめでご一緒に訪問しました。この協会は、児童文学の啓発活動を行っている団体です。

ナント市立図書館の建物

 

ナント児童文学協会入口

 この協会の活動内容としては、第一に読書委員会を設置しフランス語圏の児童書に関するレビュー(評価)を行うこと、この活動にコレロ先生は参加しているとのことでした。第二にLivrejeunというデータベースを構築し児童書のレビューに誰もがアクセスできるようにすること、第三に出版社や関連分野のパートナーと連携すること、そして、第四にフランス語圏の児童書をテーマにした講演会、シンポジウム、研修などの企画を行うこと、などなど、とても精力的に活動しています。創設は1997年、長く活動が継続しているといえます。

レビューを行う児童書の展示
読書委員会が開かれる部屋

 担当者のアンさんにお話を聞きました。フランスのアソシアシオンと言われる団体のいずれもそうですが、アンさんの話から幼児から青少年への読書活動に対する協会の使命感、そして社会をよりよくしようとする強い意志を感じました。展示されている児童書は、挿絵がいずれも美しく、子ども達の未来を感じさせるものでした。 「社会のために、こんな活動に参加してみたい」と心が動かされる出会いでした。


[注] コレロ先生はもともとはスペイン・バルセロナのご出身で、現在はフランス・ナントにお住まいです。コレロ先生から、バルセロナ自治大学を拠点に行われている児童文学や学校図書館に関わる専門的な教育についてご講演をいただいた記録を3点、中村先生が日本語にしておられます。「スペイン・バルセロナ自治大学の児童文学教育に関わる専門職養成」「西ヨーロッパの児童文学に関わる専門職養成」;「バルセロナ自治大学における児童文学の教授法」

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著者
岩崎久美子
公開日
更新日

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